ふうこの英国留学日記-その後

2003年07月24日(木) ロシアの箱舟

ソクーロフ監督の「エルミタージュ幻想」(原題 Russian Ark)を観た。

豪華絢爛な衣装や舞台装置が目をひく映画だが、この映画の面白さは案内役の
二人の掛け合いと映し出される名画たちにある。19世紀のフランス人外交官、キュースチンという設定の白髪の案内役の男性と、キャメラを目とする姿無き声(ソクーロフ監督自身の声)のやりとりはヨーロッパとロシアのインテリのロシア文化に対する批判と、愛情に満ちている。

キュースチンはエルミタージュ美術館の回廊でつぶやく。
それに姿無き声が応える。

素晴らしい。。。ここはバチカンか?
ここにはイタリアンアートの素晴らしいコレクションがある。
だが、ラファエロはロシアにふさわしくはない。
ラファエロはイタリアのものだ。もっと温かい国のものだ。
ロシア人はコピーする才には長けている。

素晴らしいオーケストラだ。演奏しているのはヨーロッパ人だろう。
-いや彼らはロシア人だ。

美しいメロディーだ。作曲家は誰だ。
-XXだ。
ドイツ人か?
-ロシア人だ。
音楽家はすべてドイツ人のはずだ。
-すべての音楽がドイツ人だって?

エル・グレコの名画「聖ペテロと聖パウロ」の絵にとりつかれたように
見入る青年にキュースチンが話しかける。
君はクリスチャンか?
いいえ。
青年はいつか人々が彼らのようになれる日が来ると言う。
キュースチンは彼に詰めよる。
どうしてそんなことがわかるののだ?
福音書も読まない君に、彼らの苦悩がわかるといえるのか?
人々がどうなっていくか、どうして君にわかる?
青年はおびえる。。。だって、彼らの手を見て。。
彼らの手が美しいからか?

映画の終盤、19世紀ロシア帝国の宮廷舞踏会は終わりを告げ、
宮殿の出口に向かった姿泣き声は、エルミタージュ宮殿の
ドアの外にグレーにけぶる荒れた海を見る。
我々はここからどこへもいけないのか?
私たちの見ていたのはエルミタージュの
中だけしか見れない失われた夢だったのか?
ロシア帝国の幻影は永遠にこの宮殿に取り残され、現実の私たちは、ロシアの箱舟がどこへ向かっていくのか見えないでいる。




 < 過去  INDEX  未来 >


ふうこ [MAIL]

My追加