女の世紀を旅する
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2004年04月12日(月) 日本人男女3人が人質,危機的なイラク情勢の真相

《日本人3人が人質,危機的なイラク情勢の真相 》

                     2004/04/12




 イラク国内で外国人誘拐が頻発しており,ついに日本人男女3人が拘束され,日本中に衝撃が走った。イラクは今どうなっているのか。
以下,戦乱のふちにあるイラク情勢の背景を探ってみたい。







 〇イラクのファルージャでは、民間の米国人が残酷に殺害された事件を受
け、米軍が大規模な掃討作戦を展開している。1週間で450人以上のイラク人が死亡した模様で、複数の統治評議会メンバーが米軍に抗議して辞任した。イラクでは、各地で反米行動が繰り広げられており、治安はフセイン政権崩壊以来、最悪とも言える情勢となっている。


 〇イラクで、サラヤ・ムジャヒディン(戦士隊)を名乗る武装グループ が、日本人男女3人を拘束した。武装グループは、イラクからの自衛隊撤退を要求、撤退しない場合は人質を殺害するとの声明を発表した。一方、日本
側は自衛隊撤退の考えがないことを表明、米国などと協力して人質の救出に当たっていく方針を明確にしている。





 イラク情勢はかなり悪化している。シーア派とスンニ派武装勢力が米軍など占領軍と各地で衝突し、ファルージャ付近では日本人などが拉致された。

 シーア派・スンニ派両派の狙いは、占領軍を撤退させ、米主導の戦後復興計画を葬ることにある。ブッシュ政権は米軍を増強し、鎮圧するとの強硬姿勢だが、ひどく困難な局面に来ている。衝突が長引けば、再選を控えたブッシュ大統領が苦戦するだけではない。小泉首相はじめ派兵国の政権も苦境に立つことになる。

 イラク主権返還を2ヶ月後(6月)に控え、治安は武装勢力の攻撃激化で悪化しつつある。返還に備えた統治機構作りでは、各派と米暫定行政当局が激しく対立。北部のクルド族は自治と石油利権拡大を要求して一歩も引かないし,一方、南部のシーア派は多数派の地位確保とイスラム法の導入を目指して早期選挙を掲げている。ブッシュ政権は開戦前には予想もしなかった現実と直面することになった。






●主権委譲計画の混乱ねらう武装勢力のテロ攻撃


 武装勢力はイラク各地で大規模なテロ攻撃を仕掛けている。今年2月中旬,バグダッド西方のファルージャにある警察署とイラク人部隊駐屯地などがねらわれた。いずれも主権委譲後の治安を担当するイラク人部隊や警察で、死者は120人余りに上った。

 このうち、ファルージャでは早朝、覆面をした数十人の武装集団が車に分乗して町に侵入、ロケット砲や機関銃を乱射してイラク人部隊と市街戦を展開した。ファルージャは米占領軍に対する抵抗がもっとも強いスンニ派三角地帯の一角である。

 米暫定行政当局は主権委譲に備え、警察官7万人、陸軍4万人、民間防衛隊4万人など合計22万人余りのイラク人部隊を組織し、訓練している。そして、昨年夏以降、これら部隊を徐々に前面に出し、米主要部隊は駐屯地に待機する態勢をとった。しかし,今回、武装勢力側はこのイラク人部隊に的を絞って攻撃を加え、打撃を与えた。暫定行政当局のブレマー行政官はファルージャ攻撃後、CNNテレビで「イラク人部隊では主権委譲後の治安を維持できない」と述べ、計画変更に追い込まれたことを認めた。





●南部シーア派とクルド族は自衛のため民兵の保有を主張


 南部のイスラム教シーア派と北部クルド族が独自の民兵組織の維持を主張する背景には、この治安面の不安がある。両者は、フセイン政権以前から政党所属の民兵組織を持っていた。クルド族の場合、クルド民主党とクルド愛国同盟が合わせて5万人余。シーア派は、イスラム革命評議会など2グループが民兵組織を持ち、構成員の数は不明だが、いずれも活動的なことで知られている。

 クルド族とシーア派は、この民兵の維持を2月28日制定予定の暫定憲法に明記するよう要求している。しかし、米暫定行政当局は民兵を新イラク軍に統合し、新政権の一元的な指揮下に置く計画を変えない。クルド族、シーア派ともこれに強く反発、話し合いは物別れに終わっている。武装勢力の攻撃激化で治安が悪化していることが、クルド族、シーア派両派の要求を強めていることも否定できない。

 クルド族はこの民兵保有要求のほか、居住地域の自治権の維持、居住区内にある油田収入の分配などの要求でも、米暫定行政当局と対立している。クルド族は、湾岸戦争いらい米軍に協力してフセイン政権と戦い、ようやく自治権を獲得した。いわば、血を流して獲得した権利だ。ところが、米暫定行政当局は新生イラクを連邦制国家とすることを決め、クルド族から自治権を取り上げ、油田収入も中央政府が一元管理する方針なのだ。米とクルドの同盟関係が敵対関係に変わってもおかしくない状況である。





●早期選挙を求めるシーア派の狙い

 南部イスラム教シーア派は今年2月、国連の判断を受け容れ、それまで主張してきた暫定議会選出のための選挙実施要求を取り下げた。だが、これで問題が解決したわけではない。要求の狙いはほかにあるからだ。米当局の計画では、イラク暫定議会の議員は、米大統領選挙の党員集会方式で選出する予定だった。政党支持者が集会を開き、あらかじめ決められた数の代議員を選出する方式だ。これを採用すれば、シーア派はあらかじめ決められた数の議員しか暫定議会に送れないことになる。

 シーア派はイラクの人口2,200万の約65%、フセイン政権を支えたスンニ派の2倍以上だ。選挙を実施すれば、圧倒的多数を確保し、スンニ派から実権を奪えるという計算なのだ。だが、党員集会方式では、それが保証されるとはいえない。シーア派主導者が早期選挙を要求したのは当然だった。ブレマー行政官は2月19日の記者会見で「議員の選出方法は変更も可能だ」と述べ、党員集会方式の断念を示唆した。しかし、シーア派が受け容れるような選出方法があるのか、疑問は多い。

 イラクでは、フセイン政権も選挙を実施したが、きわめて杜撰なものだった。国勢調査も過去20年間、正確に実施されたことがなく、住民登録も完全なものはない、従って有権者の正確な数も不明だ。その結果、シーア派は有権者が確定していないのを利用して、隣国イランのシーア派住民を大量に動員、投票させるといううがった見方も流れている。一方、シーア派内には、最近の武装勢力の攻撃は、スンニ派がサウジアラビアの過激派を呼び込んで実行しているという見方もある。この対立をどう調停するのかも、米暫定行政当局の課題である。

 中東の近隣諸国がこうしたイラク国内の動きを警戒しないはずはない。トルコやシリアは、クルド族が自治権を維持し、発言権を強めることに懸念を示している。両国に住むクルド族がイラクの同族と連携して独立の動きを強める可能性があるのだ。また、南部のシーア派が政治力を強化することに懸念を示す国もある。同じシーア派のイランの影響力がイラクに及ぶことが間違いないからだ。イラク統治評議会が昨年末、シーア派の主導のもと、イスラム法を民法に取り入れる決定をしたのは、イランの影響力の現われの1つとみられている。

 国際テロ組織がこうしたイラク各派の思惑の間隙を衝いてテロを仕掛ける動きも出ている。米軍が1月中旬に押収したアル・カイダ幹部ザルカウイのメモは、「アル・カイダがシーア派を攻撃すれば、同派はスンニ派の仕業と疑って報復攻撃をする」と述べ、宗教セクト間の不信感を利用する攻撃の効果を強調している。こうした攻撃は主権委譲後、イラクの統治機構がまだひ弱い状態の時を狙って活発化するとみられる。





●反米シーア派指導者サドル師の狙い

 今回の激しい衝突のきっかけは3月28日、米占領当局がシーア派指導者サドル師の週刊新聞アル・ハウザの閉鎖を命じたことだ。同紙が「暴力を煽っている」との理由だ。サドル師の支持者はこれに反発し、連日数千人が各地でデモを展開。そして4月5日、サドル師が指揮下の民兵組織マフディ軍に対して「実力行使」の命令を下し、武装闘争に入った。この日の最初の戦闘で、占領軍側は米兵8人とエルサルバドル兵1人が戦死、イラク側は20人が戦死した。それ以来、デモと戦闘が続くことになる。

 サドル師側が新聞の閉鎖に反発したのには理由がある。同紙はイスラム教の聖地ナジャフの教義センター「アル・ハウザ」の機関紙。サドル師の父サディック・サドル師はこの「アル・ハウザ」の教主だった。フセイン前大統領が同師の就任を支援した。同大統領はイラン人指導者が多い南部シーア派を警戒して弾圧。その一方で、イラク人のサディック・サドル師を「アル・ハウザ」教主に据えて対抗させようとしたようだ。湾岸戦争後、フセイン政権の力が弱まったのを機に、南部シーア派は大規模な反乱を起こしたが、鎮圧された。

 一方、サディック・サドル師は1999年、2人の息子とともに暗殺される。フセイン政権が同師の勢力拡大に危機感を抱き、消したと言われるが、真相は不明だ。暗殺を逃れたもう1人の息子が現在のサドル師、事件後一時身を隠すが、まもなく「アル・ハウザ」教主の後継者を僭称し、反米活動を開始した。ブッシュ政権がイラン生まれの南部シーア派指導者シスターニ師や、亡命政治家、クルド族という反フセイン3勢力を基盤にして戦後構想を進めることに反対し、これを葬るのが狙いである。閉鎖された機関紙はその宣伝活動の武器だった。

 サドル師が武力行使に出たあと、占領当局は同師に殺人事件の逮捕状が出ていることを明らかにするが、この事件も南部シーア派との軋轢が原因だった。フセイン時代、多数の南部シーア派指導者がイランに亡命するが、その一人、アヤトラ・コーエイ師が03年4月、米軍のバグダッド占領直後に帰国。モスクの集会に出席中に暗殺された。占領当局は、サドル師が側近を使って暗殺したと断定、逮捕状を出したのだ。そして、機関紙の閉鎖と同じ日、実行犯としてこの側近を逮捕した。これでサドル師もあとに退けなくなった。



●特殊任務中に殺害された米民間人戦闘エキスパート


 サドル師の機関紙が閉鎖された3日後の3月31日、バグダッド西方ファルージャで米民間人4人が殺害され、死体が損傷されて、ユーフラテス川の橋に吊るされる事件が起きた。米占領当局は激怒し、海兵隊を投入してファルージャを攻撃。これに対し、同町のスンニ派武装勢力が反撃して、大規模な戦闘になった。同町はフセイン政権を支えたスンニ派三角地帯の一角。米軍が海兵隊まで投入したのは、この事件が主権委譲計画に影響しかねないとみたからだ。

 殺害された米民間人4人はただの民間人ではない。完全武装して占領当局のブレマー代表はじめ米要人を警護する、いわば私兵だ。4人はノースカロライナ州に本社を置く民間警備会社ブラックウオーター社の所属で、レインジャー部隊や特殊部隊出身の戦闘エキスパート。米政府や進出企業と契約して、占領当局の要人や企業の幹部の身辺を護る。事件の日も、4人は特殊任務中だったようだが、関係者はその内容を明らかにしていない。しかし、4人が所属するブラックウオーター社によれば、案内にあたったイラク民間防衛軍の兵士が敵に内通していた疑いが濃いという。

 ブレマー代表は4月8日、このイラク民間防衛軍の責任者、シーア派のバドラン内相に辞任を要求し、後任にスンニ派のスマイディ氏を決めた。理由は、閣内のシーア派とスンニ派のバランスを取るためという説明だったが、殺害事件が背景にあることは間違いない。民間防衛軍は要人警護などの重要任務で米民間警備会社のカウンターパートになるイラク側の組織。4人の殺害事件は、この組織にイスラム教宗派の武装勢力やテロ組織が浸透しているのではないかとの疑いが出たのだ。

 タイム誌によれば、ブラックウオーター社のような民間警備会社は米国に約20社あり、世界各地の紛争地に戦闘エキスパートを派遣している。イラクでは、数千人が国防総省や大手進出企業との契約に基づいて任務に就いている。米軍は治安を維持し、彼ら戦闘エキスパートは要人を護る、という役割分担だ。占領当局が6月末に主権を委譲し、米軍の規模縮小を進めるには、この民間警備会社の協力が欠かせない。4人の殺害後、海兵隊まで出動させたのは、占領当局がその意味を込めたものだった。





●国際世論を揺さぶる人質作戦


 米軍と武装勢力の衝突の一方で、日本人3人はじめ一連の誘拐事件が発生した。犯人は特定できず、誘拐された正確な数も不明だ。要求も、日本に自衛隊の撤退を要求するなどばらばらだ。武装勢力やテロ集団が、米軍など正規軍との戦闘で勝ち目がないことははっきりしている。そこで、テロや、誘拐に訴え、世論を揺さぶる。地球規模の情報化が進み、イラクの映像がただちに世界各国に届き、茶の間でくつろぐナイーブな神経を揺さぶる。その結果、世論は強硬になる場合もあれば、逆の場合もある。

 米東部バーモント州のカレドニアン・レコード紙がインターネットで、ファルージャの米人4人の殺害事件について、読者の反応を尋ねたところ4月7日までに次のような結果が出た。米国はもっと「タフになれ」369票、「撤退せよ」190票、「現在の方針を貫け」59票。ファルージャの事件は、死体を橋に吊るした映像が全米に流れ、憤慨する市民が多かった。それが「タフになれ」という強硬姿勢を生んでいる。

 一方、ブッシュ大統領のイラク政策支持率は今回の治安悪化で急落した。CNNが4月8日夜実施した世論調査によれば、同政策の支持率は44%で、前回3月26―28日の調査から7%下落した。他のメディアの調査でも、下落はほぼ同じである。これが「タフになれ」という立場からの支持率下落か、「撤退せよ」という立場からの下落と読むかで、今後の対応策が決まる。ブッシュ政権幹部の発言を聞くと「タフになれ」という立場からの支持率下落と読んだようだ。





●ブッシュ政権は強硬姿勢、同盟国側には撤退論


 パウエル国務長官は4月9日、ABCテレビに出演し、「武装勢力を鎮圧して秩序を取り戻す」と強気の姿勢を示した。そして、ファルージャでは、「海兵隊が敵を撃破し、町を取り戻す」。また、サドル師の強硬シーア派に対して、「同派の民兵組織は崩壊している。今後サドル師を捕らえ、殺人罪で裁判にかける」と述べた。同長官はまた、「6月30日の主権委譲の方針は変えない。そして委譲後、イラク軍は連合軍の指揮下に入る」と述べ、米軍が新生イラク軍の指揮権を事実上握ることを明らかにした。

 このブッシュ政権の「タフ」な姿勢に対し、野党民主党の大統領候補ケリー上院議員も基本的には同じ「タフになれ」の立場だ。ブッシュ政権と違うのは、そのために外国の協力を確保するべきだという。同候補は4月8日遊説先で、「米国の大統領の役目は目標を達成するため最大限の力を結集し、同時に米国民の負担を最小限にすることだ。ブッシュ大統領が今なすべきことは、イラクの負担を米国だけで背負わず、同盟国に分担するよう求めるべきだ」と主張した。日本やオーストラリアなどの野党陣営で起きている「撤退」を求める声とは、同じ野党でもトーンがまったく違う。

 オーストラリアの野党労働党のレイサム党首は4月7日、「我々はイラクで起きていることに関わる必要はない。現在、イラクに派遣している部隊をクリスマスまでに撤退させるべきだ」と主張した。現在のハワード政権はブッシュ政権とテロ対策、北朝鮮政策で緊密に協力し、イラクにも850人の部隊を派遣している。これに対して、昨年暮れ労働党党首に就任したレイサム氏は撤退を主張。今年中に行われる選挙では、これをスローガンに掲げて与党と対決する方針だ。最近の世論調査では、与野党の支持率はほぼ同率、今後のイラク情勢の推移次第でレイサム党首の労働党が8年ぶりに政権に返り咲く可能性が十分ある。

 このほか、米英をはじめ派兵国36カ国のうち、スペインのサパテロ次期首相、ニュージーランドのクラーク首相などが基本的に撤退の方針をすでに決めた。イラク情勢が今後も不安定なまま推移すれば、イタリアやオランダなどでも撤退を主張する野党勢力が勢いを増し、政権が苦境に立つことは確実。日本も夏の参議院選挙の結果次第で、小泉政権は苦境に立つだろう。しかし、ブッシュ大統領は民主党のケリー候補が基本的には同政権と同じ「タフになれ」という立場に立つことで救われている。派兵した同盟国の政権が潰れ、ブッシュ政権だけが生き残ることになるかもしれない。





 


カルメンチャキ |MAIL

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