閉店1時間半前のこと。 たまたま社長夫人は外出中、連休近い週の平日なんて 特に暇なものだから在庫整理も兼ねて店の裏側にいた。
何やら隣の駐車場が騒がしい。 店の裏側と言っても元々玄関先だったところを即席の事務所に してしまっているので、駐車場を隔てるのは青いビニールシート2枚。 お蔭で普段から否が応でも話し声やらエンジン音が聞こえてくる。
と。いきなりつんざくような女のコの声。
『助けてー!殺されるー!!』
あまりに唐突な叫び声に、思わず持っていた箱を落として (見えもしないのに)駐車場の方を見て呆然としてしまった。 っつーか、何事よ。穏やかじゃないなぁ。
様子を見ようにもシートは紐で固定してあるし、店には私だけで 外に出ようにも出られない。 おまけに隣とはいえ、駐車場へはビル2つ分ぐるりと回らなきゃいけない。 どうしようかと受話器を持ちかけた時、更に声は続いた。
『触んないでよ!こっち来ないでよ!』
『いやだから落ち着けって!』
…ん?男の声?
『だからこっち来ないでってば!!』
『お前が潔白だってんなら見せてみろよ!』
もしかして単なる痴話喧嘩? それにしてもこれだけ男女で声量の比率が顕著な喧嘩も珍しい。 完全に男性が押され気味だなと思いながら、こちらも作業再開。
その後女のコが『誰か警察呼んで!』と 喚いて男性が宥める声が遠ざかるのは分かった。 そこから歩いて3分もしないところに交番はあるのに、 全く逆の方向へ歩く程度のスピードで。
この場合、私は警察へ電話するべきだったのだろうか?
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