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2005年08月05日(金)


■8月
駅からの帰り道、とうとつに、8月だと気づいて感慨深い気持ちにひたる。8月というのは特別な月で、わたしの8月はいろいろな場所に繋がっているようにいつも思う。だらだらとした暑さと夜のしめった空気と。冬とはちがって決してしんとしない、りんとしない、高揚と焦燥がいりまじったざらざらした感じとか。つまりちょっと煩悩が高ぶる季節ではないかと。昔から夏休みであって、夏休みの終わりの月であるし。うっかりしていたのですが、勤め先の会社はお盆休みがないそうで、祝日もないし、今年は仕事ばかりしてそう。睡眠時間を削らずに時間をひねりだす方法をずっと考えているのだけど、もうちょっと太って体力をつけるしかないという結論にいたって、現実は厳しそうです。今日はがんばって皇帝ペンギンを見てきました。

■皇帝ペンギン
先に文句を言ってしまおう。。音楽がよくないです(曲が悪いわけではないのですが、自然音を消してしまってうるさかった)。声の入ったものはエンディングだけにして欲しかったです。あと想像していた以上にセリフが多く、少し萎えました。石田ひかりの声はなんだかトーンが高くて彼女がしゃべるたびにびっくりする。字幕版なら気にならないかも。それからできれば海中のシーンももう少し欲しいかな。彼らがもっとも生き生きとするのはやっぱり海中だと思うので。

蛇足ですが、皇帝ペンギンを家で飼うのはやはり無理なのでは、と「ペンギンの憂鬱」という小説につっこみを入れておきます(笑)。

でもペンギン大好きなので、機会があればまた観たい。つまづいたりじたばたしたりしていると、もえーもえーとはしゃいでしまうのですが、彼らの繁殖活動は思っていた以上に過酷で涙ぐましかったです。うう。卵とか雛とか雄の親鳥とかいっぱい凍死と餓死してた。

南極の風景はこの世のものとは思われないほど美しくて、人間がいないせいかもしれないけれど、本当にどこか別の星みたいでした。

■「神様のボート」江國香織
愛するひととの約束を守って、放浪する母娘を描いた物語。

なんだかんだいって気になる江國香織です。これはひさびさによいと思いました。途中まではいつも以上にとんちんかんな主人公葉子さんと、そのべったべたな母娘関係に辟易していたのですが、もうひとりの主人公草子ちゃんの存在でかろうじて、というか本当に繊細なバランスで、物語の均衡も取れていてなんとか読めました。

母親の葉子さんがおかしすぎるキャラなので、その分草子がとても現実的な役割を担っている。個でみると、愛するひととの約束のために、16年も放浪する葉子さんは確かにおかしいのだけど、でも絵國さんこういうの得意でしょって思うから、逆に草子ちゃんというキャラクタが際立って素晴らしい存在に思える。物語のはじめの方は草子ちゃんも小学生で、ふたりがまじりあっていたのだけど、草子ちゃんが成長するにつれ、どんどん別々の骨格をなしていくさまが見事でした。

これは家族の物語でもあり、恋愛小説でもあって、うーん、恋愛小説として読むと、わたしは葉子さんの愛する男性が出てこないのがよかったと思いました。葉子さんは様々にこの男性について語るんだけど、しょせん葉子さんの証言しかないわけだし…、みたいな曖昧さがよかった。ところがもうひとりの男性、葉子さんの元旦那さんの方はリアルな存在として登場してくるのだけど、ちょっとうっとうしかったです。桃井先生。年老いた音楽の先生。こういう枯れたキャラ、最近多くないですか?

葉子さんは夢のなかを生きているので(彼女にとってはそれが現実なのですが)、当然成長した娘の草子ちゃんとは衝突することになる。このときのやりとりがとても静かなのに、ものすごく破壊力があって、でもわたしはここに一番共感して、読み終えてみると(とんちんかんと思ってた)葉子さんの人生に、手ごたえのようなものが確かにあって、今回は江國さんにしてやられました。葉子さんだけの物語だったとしたら、こういう普通の終わり方にはならなかったと思う。でも草子ちゃんという存在があって、だからこうなるって思っていたとおりの展開になって、そうならざるをえないっていう展開でもあって、それがとてもよかったと思うのです。