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更新履歴 キキ
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2006年09月09日(土)
■樋口一葉 小説集 宣言通り、このあとに泉鏡花を読み始めているのですが、前になんであんなに苦しんだのかわからないくらい読みやすい。(ちゃんと学習してる)さすが! 5千円札になったせいで、一葉関連の本は最近色々出ていたみたいですね。現代語訳が多いのにはちょっとびっくり。まだ早くないかな。たかだか100年前の文章を読めないなんて嫌ですね。 収録作品:大つごもり/ゆく雲/うつせみ/にごりえ/十三夜/わかれ道/たけくらべ/われから/闇桜/やみ夜 +同時代評つき。 以下、内田露庵の「にごり江」への同時代評より抜粋(カッコ内はキキが振り仮名をつけました)。 案ずるに作者の意は婦徳の何物たるを十分弁知する婦人が残酷且つ放恣なる運命に玩ばれ自ら進んで淫猥なる醜窟に墜落し中心の狂悶焦慮を外面の笑謔放蕩に紛らし敢果(はか)なき生涯を仮装道徳家に嘲らるゝ間に不幸なる最期を終わるの惨劇を描かんとせしなるべし 魑魅魍魎が跳梁跋扈、百鬼夜行的な曖昧模糊で意味不明な紹介ですねえ(あはは)。露庵は、「にごり江」は優れた作品ではあるけれど失敗作だと言っていて、その理由が悲劇的な最期に至るまでの描写がないためだと、そんなことを言っているのですが、わたしの感覚でいうと十分理解できるし、今の感覚で言うと書かないのが粋、という気もします。あと、女の人が娼婦を描くということにちょっとおっかなびっくり、褒め方に気を使っている様子。 「にごりえ」は娼館の売れっ子で粋な女性お力が、朝乃助というわりといい男に昔語りをするという筋で(「ぼっけえ、きょうてえ」みたいですね)、なかなかお力さんは自分のことを話してくれないのですが、通いつめて話を聞きだしてみると、蒲団屋の男と訳ありらしいと。で、別れたらしいのだけど、ある日突然、お力は無理心中で蒲団屋に切り殺されてしまったと。 確かに、「昨日まで楽しく遊んでたのに」みたいな唐突な展開ではあるのだけど、これはある意味同意の上での無理心中であって、お力さんの人生どっちに転んでもどん詰まり、みたいな感覚がよく伝わってきました。 * 最後に収録の「やみ夜」はだいぶ文体に慣れた頃で読みやすかったです。これは六条の御息所みたいなお話。いい家柄だった蘭という女性が父母を亡くして没落して、ひっそりと妾のような感じで暮らしていて、恋人から久しぶりに手紙をもらって彼女はこんな風に言う。 これ見よ、おそよ※。波崎さまは相変わらずお利口なりとて左のみは喜びもせず (※使用人の名前) 世間体を気にしているけれど、やみ夜もあるはず。その気があるなら裸足でもなんでもやって来いと言って、恋人への愛情はとうに消えているのに、向こうは何もない顔でどんどん出世しているのを見るにつけ、どうにも抑えきれない恨みの気持ちを自分でも恐ろしく思っている。 でもこの蘭という女性はすごく格好よくて、凛とした風。でも魔が差すんだな。この人もやはりどこへも行けずにいる。一葉の小説はこういう展開のものが多かったです。 * 「たけくらべ」はちょっと違っていて、なるほどこれが代表作なのも頷けます。美登利のアイドルっぷりが可笑しかった。”三ちゃんを何故ぶつ、わたしが相手だ”と喧嘩を止めに入ったものの、相手が投げた草履が額に当たって、回りのみんなの顔色がさーっと変わったような様子が面白い。 美登利は遊郭で育てられている娘さんですが、今の感覚とはちょっと違って、かなりの大店の娘なので、遊郭ではあるけれど、将来はみなの手の届かないほんとにアイドルみたいな存在で、こういう女の子が普通にクラスメイトであるという状況が今ではありえないので、不思議な感じがしました。一葉の時代ならでは。周りの男の子たちもやっぱり戸惑っていて、アイドル扱いしたり、からかったりと色々。 この話は、美登利の鼻緒の切れた下駄を信如が直してあげるのかと思っていたのですが、切れたのは信如で、美登利のくれた端切れを恥ずかしくて受け取れなかったという話でした。相変わらず記憶間違いが多いな。美登利の方も恥ずかしくって、手渡すんではなくて、ぺっと投げてしまうのがよかったな。 どこへも行けない、なんてことは本当はないんだと思う。でも手足は重くて、わたしもすぐにそういう気持ちに囚われるので、やはりそこに共感を覚えます。でも本当にそこに落ちてしまうと、もう自分か他人か、何かを壊すしかなくなるのでしょう。基本的にそういう構造の小説がほとんどでした。 ![]() |