蜜白玉のひとりごと
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11月。新しいワインができあがり、航空便で運ばれてくる。厳重に温度管理をされて。
もうすぐボジョレー・ヌーボーの解禁日だ。わたしは毎年この日に、同じ銘柄のワインを買う。 ジョルジュ・デュ・ビュッフ社 ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボー このワインを初めて飲んだのは、1998年5月10日。なんでこんなによく覚えているのか。それはひとつの恋が終わった日だから。
当時、一人暮らしだった私は、フラれたその足でいつもの帰り道と同様に、スーパーに寄ってあれこれ材料を買いこんだ。そして、家に着くなり、チキンのハーブ焼きとトマトサラダを作り、フランスパン、チーズ、苺などをテーブルに並べ、例のワインを開け、夜中まで飲んで食べた。
料理は丁寧に作ったから、どれもおいしかった。それにワインともよく合っていた。ワイン1本飲み終わる頃には、ぐるんぐるんに酔っていてまっすぐに歩けないほどだったが、自分の家なので心配することは何もなかった。
悲しい気持ちも涙も全部、自分の栄養にしようと思った。ワインは心を柔らかに、健やかにする。その夜はいつの間にか寝てしまい、知らないうちに朝が来ていた。
それ以来、私はよくこのワインを買う。今となっては「そんなこともあったわね〜」という感じで、失恋を嘆くわけでもないし、恋の弔いをするわけでもない。しかし、私はその味と香りがとても好きなので、解禁日が近くなると、「今年も買おうかな」という気になるのである。
** TODAY 'S BGM ** Nat King Cole / 枯葉 AUTUMN LEAVES
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