記憶をたどる。思いをはせる。何の生産性もない行為だけれど、健やかに生きていくには必要なことだ。少なくとも、私にとっては。今はもう目の前にないもの、遠くの時間、遠くの人、遠くの場所。そうしたものを心に描く。記憶は不思議なことに、時間が経つにつれて熟成されていく。少しずつ、でも確実に、その姿を変えていく。遠くに思いをはせる人の顔が好きだ。それは、思い出すことにつきまとう寂しさを引き受けたあとの、潔い顔。手紙を読む、日記を読む、写真を見る、本を読む。洪水のように押し寄せてくる記憶から、私は少しの元気をもらう。