蜜白玉のひとりごと
もくじ|かこ|みらい
午前1時くらいから、『海猫』(谷村志穂著/新潮社)の続きを読む。外はものすごい南風が吹いていて、まるで嵐のようだ。ただ、雨音は聞こえてこない。残り100ページくらいまできたところで止まらなくなり、最後まで読むことにきめる。明日のことなどどうでもいい。1日くらいの寝不足はなんとかなるものだ。
午前3時半、読了。途端に周りの音が耳に入る。相変わらず風は強く、玄関の門が風にあおられて大きな音をたてる。きちんと閉まっていないのだろうか、階段をそろりそろりと下りて、音をたてないように玄関のドアを開け、おもてに出る。生ぬるい風が吹いている。真夜中らしく暗く静かで、しばらく門のところに突っ立って、誰もいない道路を眺める。門を閉めなおして、家に入る。
本を読んで、こんなにまともに涙が出たのははじめてかもしれない。愛に深く生きた人たちのおはなし。『海猫』は北海道・函館近くの漁村、南茅部(みなみかやべ)が舞台で、南茅部は今も昔も昆布漁が盛んなところだ。南茅部には知人がいる。知人もまた昆布漁をしている。本当に海のそばで、海と共に暮らしている。その様子が、町中でしか暮らしたことのない私にはとても新鮮だった。私たち家族がまだ札幌に住んでいた頃、何度か知人の家に遊びに行き、一緒に食事をして、海の話をした。ときどき昆布漁を手伝いに行ったりもした。『海猫』は昭和30年代から50年代の設定だから、小説の中の南茅部と私の知っている南茅部とは違うかもしれない。それでも、あの海や港やそこで暮らす人々を見て知っているからこそ、ここまで惹きつけられたのだと思う。あの寂しげな海をもう一度、見てみたくなった。
|