蛍桜 |
≪BACK | TITLE LIST | NEXT≫ |
フィクション |
朝、目を覚ますと思うんだ。 この光が鬱陶しいって。 だけど今日はいつもと違って、すぐに起き上がるんだ。 自分の中の決意のために。 いつも聞きなれた携帯のアラーム音も、愛しいんだ。 この音は、君が私にくれた音だから。 昨日たくさんの時間を使って選んだ服に袖を通す。 いつもはしない化粧を、ちょっとだけする。 君はきっと化粧する私なんて好きじゃないだろうから。 ちょっとだけ。 でも私は、少しでも可愛い私を見て欲しいから。 バレないくらいに。 どうせ人の顔なんて、そんなに見ないとは思うけど。 年とった私の顔に幻滅するかもしれない。 まつげをビューラーであげて、鏡でチェック。 もっと、まつげが長かったらいいのに。 乗り慣れないバスに乗るんだ。 そして、降りるのも見慣れない景色が広がる場所。 でも、訪れたことはある場所。 「よく知った場所」になるには、まだ回数が少ないかな。 ここで行き交う人々には敵わない。 君は、偶然なんてなくていいと言ったけど、 私は偶然のほうが好きだな。 偶然を装った、必然が。 前に訪れたのはずっとずっと前だから きっといろいろ変わってるんだろうな。 あのコンビニはまだあるだろうか。 ジリジリと、暑い空気。 ここで、それを感じるのは初めて。 ほら、だから、ここは「見知った場所」じゃないんだ。 まだここで、雪が降るのも見たことがない。 川の流れはどんなだろう。今もまだ静かだろうか。 子どもの笑い声はどんなだろう。今もまだ穏やかだろうか。 もしかしたら君はもう、そこにいなかったりして。 それならそれでいいや。 偶然を装った必然、はあんまりうまくいかない。 私がここに来た理由ってなんだろう。 別にそんなの、必要ない気はするけれど。 この場所にまだ持ってきたことのなかった一眼レフを首から下げて。 きっともう、二度と会うことのない景色を収める。 何年か後、この写真を見ることがあったら 私はどんな気持ちになるんだろうな。 ま、私のことだからハードディスクが壊れて全部無くしそうだけど。 それでもいいや。 今、手に出来ないものを 写真を撮ることで、手にしているんだ、と思いたいだけだから。 さ、覚悟決めて。 チャイムを押そうか。 願わくは笑顔の君がいますように、なんて。無理だけど。 ・・・ やっぱ、やめた!! 君がくれたこの思い出を、 そっとポストに入れて。帰ります。 君に、届きますように。 なんて、くさいかな。 ま、チャイム押す勇気がなかっただけなわけだけど。文句ある? 帰り際に君に会えるといいな。 限りなく必然に近い偶然。 いや、むしろ私がここに居る時点でおかしいわけだけど。 もし会えたら、、、なんて。 驚く顔の君が目に浮かぶ。 想像だけでちょっと幸せになれた。 今度は、雪が降っている日に訪れよう。 っていう、物語。 いつか作れるといいなー。 |
2010年08月09日(月) |
≪BACK | TITLE LIST | NEXT≫ |
My追加 ‖ メール ![]() enpitu skin:[e;skn] |
Copyright (C) 蛍桜, All rights reserved. |