蛍桜

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あの魔法はもう溶けた

高校2年と3年の時、
クラスにはとても大人しい子がいた
声も小さく、積極的に人と関わらない
だけど背が高くて、美人で、笑顔が可愛い
多分性格もいい
誰かが話しかければちゃんと応答もするし
別に誰かに嫌われてる、ってわけでもなかった
多分図書館で本を読んでる姿が似合うんだろうなと思った
部活は書道部
たまに他クラスの書道部の友達と話しているのを見た

ある時、たまたま席替えでその子の隣になった
私も人見知りを発揮して、なかなか声をかけなかった

ある数学の授業の時、私と彼女が先生から指名された
私は大嫌いな数学の答えが分かるわけもなく
どうしよう、と思って彼女へと視線を投げると
彼女もこっちを向いて
「全然わからないね〜〜」と笑ってくれた
胸キュンした

とある集会のとき、彼女がステージに呼ばれていた
どうやら、彼女は書道でなにか賞をとったらしかった
しかもそれはどうやらとてもすごい賞で
いわゆる、日本一になったらしかった
書道のことは全然分からないけど
見せてもらった作品は
なんとなくすごいなぁと思わせるものだった

うちの高校はワープロ部がとても強くて
よく大会には出場していたけど
日本一をとったことなんてしばらくなかった
でも、うちのワープロ部のすごさは知っていた
体験入部にも行って、
ものすごいスピードでキーボードを打つ人たちを見た
日本を目指す人は、とてもとてもすごい人たちなんだ、と
その時感じた

それに比べて書道部は
小さな部屋で少人数でやっている部で
とてもとても日本一を狙う人たちがいるだなんて
思える部活じゃなかった
だけど彼女はそんな環境で日本一をとった

私は単純に、不思議だった

テレビとかでよく日本一っていうのは見るけれど
ああいうのは別次元の人だと思っていた
自分の周りに現れて
なんとなく非現実的な感覚を持った

だけど彼女はいつもと変わりはない

日本一ってそんな簡単にとれるものじゃない
彼女はきっと、とてもとても書道が好きなんだろう

日本一になった彼女は偉そうにもしないで
いつもどおり存在していた
でもやっぱり私にとって日本一は遠い遠い存在だった



そんなことを思い出していたら、
いつの間にか私も日本一だったんだ、と思い出した

他人はみんな「すごいですね」と言ってくれるけど
別に何もすごいとは思わなかった

知り合いは、私が日本一になったことには一切触れなかった
きっとずっと見下してきた私が
そういう称号を手に入れたことが気に入らないんだろう

天上のみんなは、「日本一ってすげぇな!やばいな!」
と言ってくれた人もいたけど、
そうやって言ってくれることが嬉しかっただけで
自分がすごいとは全然思わなかった

そんなこんなで、
私が尊敬していた彼女は
あの時どんな気持ちになっていたのか、っていうことが
なんとなく少し分かった気がして
少し嬉しくなった

日本一、という肩書きは案外使えない

日本一、という肩書きがあっても
自分に自信を持てるわけでもないし
テレビに出れるわけでもないし
お金がもらえるわけでもない

だから正直、日本一、ってどうでもいい

だけど日本一になる過程で
大好きだったパソコンを
ずっとずっとやり続けてきた自慢、みたいなものはある
これだけパソコンが好きなんだ、って
言い切れる部分はある

彼女はきっと今はもう私のことなんて忘れて
私と同じように日本一だったなんてことも忘れて
どこかで仕事をしてるんだろう

だけど私の中で彼女は
日本一、ってことだけじゃなくて
存在として、キラキラ輝いて残っている

私も誰かの中で
キラキラと輝いていられる人間になりたい


2011年01月26日(水)

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