ふっと、覚めたように詩を書いてみた。 何も沸いてこないけれど。 新潟地震のとき、僕は埼玉にいた。
「不感症」
旅先で、手持ちぶさたに腕輪をつくる 仲間に冷やかされないよう 妹のためと偽りながら あなたのために腕輪をつくる
ほそい安物の革ひもに 木製のビーズを通していく 欠片の穴を覗きながら できるならこの穴があなたの部屋に通じていたらと思う
ふいに 渓谷沿いの安旅館に、地鳴りが響いて 盆に盛った欠片が ぽろろと畳を横切っていく
そのとき私の後頭部の方角遠く 町が崩れて 川がつぶれて 人が倒れていた けれど私の目にはあなたにつながる欠片しかなかった
そのとき私の右耳の方角、帰るべき場所で 母が私の身を案じた 父が、受話器に手をかけた 友がテレビをのぞき込んでいた けれど、私の目にはあなたにつながる欠片しかなかった
こんなふうに死んでいく あなたにつながる欠片を見つめて こんなふうに死んでいく あなた自身を見ないままに
畳の上の欠片をつかまえ 何事もなかったかのように腕輪をつくる あなたの白さを想いながら 音のない部屋で腕輪をつくる
その夜何度も大地は揺れたが 私は何も感じずに朝を迎え あなたに腕輪を持ち帰っていく
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