2006年11月15日(水)
High Level Love 2 (ラグナロク・モンク×セージ)
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もう幾度目の朝だろうか・・・。 ここ数日間この部屋から出ていない。 だって、いつものようにギルドの溜まり場へ行ったらあの人がいる。
僕を好きだと言っていつもは見せない「男」の表情をしたオッズが・・・。
クリスは枕を抱えたまま、よっと起き上がる。 告白されたのは5日ほど前。 その日から、なんとなくオッズと顔をあわせづらいので引きこもり生活をしている。 だが、クリスはギルドの参謀という役職を背負っているため、ギルドメンバーなどからギルチャやウィスでの呼びかけが殺到しているためさすがにこれ以上連絡ナシで引きこもるというわけにはいかなかった。
「・・・気が重いけど、行きますか・・・。」
抱えていた枕をベッドに置き、重いため息を一つ大きくついて部屋を後にした。
部屋を出て、すぐにばったりとギルドメンバーのフローラに出会った。
「お久しぶりですわ。今から溜まり場にいらっしゃるので?」 「あ、フローラさん、こんにちわ。うん、フローラさんも?」 「ええ、そうなんですの。よろしかったらご一緒に行きませんか?」 「もちろん。」
とりあえず、一人で行ってオッズと二人きりになるという事態は避けれるので、僕はフローラさんの申し出を快諾した。 僕の返事を聞いてフローラさんは速度増加の呪文をかけてくれた。 こういう心遣いとかが我がギルドの剣・ロードナイトの斬玖(ざんく)さんの心を射止めたんだろうな・・・。
フローラさんの速度増加のおかげで溜まり場にはすぐに着いた。 日陰には・・・オッズが座っていた。
(・・・すべてが上手くはいかない・・・か・・・。)
二人きりというわけではないのがせめてもの救いだ。僕はフローラさんに並々ならぬ感謝の念を送った。
「オッズさん、こんにちわ。」 「こん、にちわ。」
フローラさんがオッズに挨拶をする。さすがに僕も何も言わないというのは不自然なので短く挨拶をした。
「お、こんにちわー、フローラさん、クリス。」
いつものオッズの人懐っこい笑顔。なんだかすっごく久しぶりに見た気がする。 ・・・でも、なんだ・・・オッズは告白したことなんてたいしたことなさそうにしているなぁ・・・。 なんてぼんやり考えながらオッズを見ていたらフローラさんが大それたことを提案しだした。
「そうですわ!せっかく3人集まったんですからいつものようにタートルダンジョンに参りませんか?」 「えっ!?」
予想もしなかった展開に僕は一瞬声をあげた。僕のその反応にフローラさんは意外そうな表情をした。
「あら・・・何かご都合がよろしくないので?」 「あ、いや・・・っえっと・・・ほら、フローラさんは斬玖さんとデート狩いかないのかなって!!」 「ああ、斬玖さんなら、24時間耐久起床とかやってしまって、いまはぐっすり寝ておりますの・・・」
痛いところを突かれて、とっさに出た苦し紛れの反撃はあまり効果がなかった。
「ですから、ご遠慮なさらず、3人で一緒に狩りましょ!」
そういって極上の笑顔を見せてもらっては、断れるはずもなかった・・・。
「発頸、気孔、発頸!」 「レックスエーテルナ、レックスエーテルナ!」 「ナパームビート!!」
さすがにプリーストがいるといつもより狩りの展開が速かった。 いつもはオッズが担当していたヒールや支援がフローラさんに任せていればいいので、その分の回復剤消耗も抑えられるからだ。
「!・・・クリスさんっ・・・だめ!!」 「・・・!?うわっ!!」
集中して狩っていたつもりだったけど、やはりオッズのことが気になっていたのでモンハウの気配に気づかなかった。 細道を抜けた広場にはアクティブモンスターのフリーズタートルとペストの大群がいた。 いくら体力(VIT)に修練を積んでいても所詮は知力を得意とする職業のセージである僕はすぐに深手を負っていった。 フローラさんが連続してヒールをかけてくれるけど、ギリギリだ。
(やば・・・死ぬかも・・・)
一瞬脳裏に「死」という文字が浮かび上がって、ぎゅっと目を瞑る。 そしてまぶたの裏に見えたのはオッズの無邪気な笑顔。
(ああ・・・こんなことになるならちゃんと答えておくんだった・・・)
イエスにしろ、ノーにしろ・・・一緒にいて、一番楽しいのは貴方ですよ・・・オッズ・・・。
「・・・リス・・・クリス!!」
視界が明るくなる。 一番初めに見えたのはオッズのひどく心配した顔だった。
「あれ・・・僕は死んでないのか・・・?」 「バカ!死なせるわけないじゃん!!」 「そうですわよ。オッズさんがあの程度のモンハウを処理できないわけないじゃないですか!」
同盟屈指の阿修羅使いなんですから、とフローラさんは得意げに付け足す。 よっこらしょと上半身を起き上がらせた。
「そっか、ありがとう、オッズ・・・」 「ありがとう、じゃないよ!もう!オイラ前に言ったじゃないか、クリスは怪我しちゃダメだって!」 (あぁ、以前もこうやって怒られたっけ・・・)
そんなことをぼんやり考えながら無意識にオッズを見つめていた。 僕は本当に無意識に見つめていただけだったので、今度はオッズのほうが動揺して目をそらした。 それに気づいて僕も急に意識するようになってあわてて目をそらす。
「うーん、キリもいいことですし、そろそろ戻りませんか?」
そんな僕達に気づいたのかフローラさんが狩りの終了を提案した。
ひんやりと涼しいタートルアイランドダンジョンからいつもの暑い日差しが強いモロクへ戻ってきた。 特に清算もないのでいつもの小屋の日陰に腰を下ろした。
「わたくしたちももうすぐ転生ですわね。わたくしはお二人から少し遅れてしまいましたが・・・」
腰を下ろしてフローラさんは嬉しそうに話し始めた。 転生・・・遥かなる旅路の終わりと始まり。冒険者であれば誰もが憧れる。 戦乙女ヴァルキリーからの祝福を得、さらなる高みへと昇る旅路への新たなスタート。 僕達はもうすぐでその高みへと到達することができる。
「転生後はやはりお二人は今と同じ道を歩まれるのですか?」 「そうだね、僕は今と同じように魔法詠唱が速くなる器用さ(DEX)と体力(VIT)を上げるよ。」 「オイラは力(STR)はマックスまで上げるし、阿修羅の威力をさらに上げたいから精神力(INT)多めであとはバランスよくかなぁ」 「そういうフローラさんは?」 「わたくしももちろんまずマグヌスエクソシズムを強くするため精神力(INT)をあげて途中から詠唱速度(DEX)を速くして無詠唱をするのが夢ですのv」
にっこりと微笑んでさらりとフローラさんはすごいことを言った・・・。
「フローラさんは相変わらず城攻め(Gv)とか関係ないんだねぇ・・・」 「一週間のうちのたったの2時間に人生左右されるなんてわたくしらしくないでしょう?」 「そりゃそうだ。」
あはは、とオッズが笑う。その笑顔を僕は横から眩しそうに見つめた。
「・・・さて、わたくしはそろそろ斬玖さんが起きてまいりますので朝食の支度をしてまいりますわね。」
そう言ってフローラさんは斬玖さんの待つ宿屋へと戻っていってしまった。
「「・・・・・・・・・。」」
フローラさんが去ってからもう10分近くになるけど僕達は無言だった。 いつもみたいに何気なく話せばいいだけなんだけど、あんなことがあった後だと何を話せばいいのかと意味もなく戸惑う。
「・・・クリス。」
先に沈黙をやぶったのはオッズのほうだった。
「・・なっ、なに!?」
かなり動揺して大きな声で返事をしてしまう僕。
「・・ぶっ・・・あははははははは!!!」
こっちは必死で対応してるのに、返事しただけで大爆笑されてしまった・・・。
「・・・な、なに・・・?何で笑ってるんだよぅ!!」 「だ、だって・・・・ぶははははは!!!」
なんだかだんだん腹が立ってきて怒りぎみで話しかけても笑われてしまって。
「だって、クリス、・・・ぶ、あはは!『寝癖付いてる』って言おうとしただけなのにっ・・・!あはははは!!!」 「え?えええっ!?」
言われて慌てて近くの湖へ駆け込んで自分の髪型を見る。 た・・・確かにはねてる・・・。5日間寝転がりまくってたからかはねまくってる・・・。 ・・・こりゃぁ、まぬけだぁ・・・。
「あははははははは、ぶははははは!!」
オッズは相変わらず爆笑しつづけている。
「わ、わらうなあああああああああああ!!!!」
僕は寝癖を手早く治してから振り返ってオッズに向かって力いっぱい叫んだ。 だ、だって5日間もベッドでごろごろしてたから、寝癖だってつくじゃないか!
「あははははは・・・・・・は、はぁ・・・あー苦しw」 「苦しくなるまで笑うなあああああああああああああ!!!!!!!」
とりあえず落ち着いて立ち上がるオッズにもう一喝。 オッズは今だ息まく僕の頬に触れてきた。 瞬間、僕の体がこわばってしまい、それに気づいたオッズが触れていた手を離した。 ふぅ、というオッズのため息が聞こえた。
「クリス・・・オイラのこと嫌い?」 「・・・え・・・そ、そんなこと・・・」 「だって、オイラのこと避けてるでしょ。」
・・・た、たしかに避けてたけど・・・。
「今だって、触ったら、全身で拒否してた。」 「あ・・・。」
触れられて体がこわばったけど・・・拒否じゃない。違う・・・。
「確かにオイラは男で、クリスも男だから気持ち悪いとか思われてもしかたないけどさ。 イヤだったらちゃんと言って。すっぱり諦めて今までどおりになるから。」 「ち、ちがうよ、オッズ・・・。」 「いいよ、遠慮しなくて。確かにクリスがオイラをフってギルドを抜けたりでもしたら戦力はガタ落ちだしね。 大丈夫、ギルドは抜けない。」
オッズは笑いながら言ってるけど、きっと心の中は泣いてる。 いつものような無邪気な笑顔じゃないから。眉がすこし垂れ下がった、悲しい笑顔。
「だから、ちゃんと言ってよ。クリス。」
オッズがそこまで言って、僕は顔を下に向けた。 何やってるんだ、僕は。ちゃんと、言わなきゃ。
「ちがうよ、嫌いじゃない!一緒にいて、一番楽しいのはオッズだよ!」
ばっ、と勢いよく顔を上げてオッズを睨んで叫んだ。 僕のその言葉にオッズは予想外だったのか丸く目を見開いて僕を見てきた。
「さっき、亀島で死に掛けたとき、死んでないから走馬灯じゃなかったけど、オッズのことが頭に浮かんだんだ! こんなことになるならちゃんとオッズに言っとけばよかった・・・って・・・。」 「・・・クリス・・・」
オッズは僕より10cmくらい身長が高いから必然的に僕がオッズを見上げる形になる。
「オッズの言う、キスとか、そゆのはまだ、わかんないけど・・・、でも、オッズは大好きだよ・・・。」
言ってしまって途端に恥ずかしくなり、顔が火を噴いたように真っ赤になった。 そんな僕をオッズはさっきの驚いた表情のまま、いや、さらに驚いてるみたいに見てくる。
「クリス・・・それほんと・・・?」
目を丸く見開いたまま問いかけてくるオッズ。・・・なんか、よく見るとマヌケっぽいなぁ(笑)
「うん、一緒にいたい、けど・・・でっ、でも、肉体関係とかは、ちょ、ちょっと・・・!あ、あははは・・・。」
照れて頭をぽりぽりと掻く。あー、もう、何か恥ずかしすぎるなぁ・・・。 そう思って顔を下に向けようとしたら急にオッズに抱きしめられた。
「・・・ひゃ、名、なななな・・・・!!!??」 「やった、やったぁ!うわー!!マジ嬉しい!!いやっほう!!」 「ちょ、ちょっと、オッズ!い、いたい!!」
STR補正込み120に力の限り抱きしめられた僕は実際は痛いどころではなく、意識を失ってしまっていった。 オッズが気づいて慌てふためいて、フローラさんをよび、僕の部屋で回復魔法をかけてもらって気が付いた頃にはもう夕刻近かった。
とりあえず回復した僕を見て嬉しそうに、今度はそっと抱きしめたオッズに毒を吐きながらも、少し幸せなんか感じていた。
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