独り言
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2006年04月11日(火) acidrain #2-6/ハローシステム

「T46-03-1122」
そう告げると扉は
「声紋を確認しました」と言い
続けて
「右手をスキャナーに差し込んで下さい」と言った

グローブを外し僕は言われるがままに右手を複合スキャナーに差し込んだ

五本全ての指紋と静脈パターンを読取り終わるまでの約30秒間

毎朝の様に僕の頭の中をよぎる言葉がある



「お前はいったい何を守っている?」

そして
「お前が守っているのはルールだけで
その向こうに取られて困る様な物なんて何も無い
そもそもお前が守っているルールというものは必要に迫られて初めて生まれくるもので
それを別の場所で適用する事は無駄以外の何物でもないんだよ」



…ピー…ピピッ…プシュー

重い扉が開き僕は更に重苦しいエントランスへと招き入れられる


「IDを確認しました。おはようございますT49-03-1122。今日も一日元気に働きましょう!!今日のあなたのラッキーナンバーは4と9!!ラッキーアイテムは……」


先ほどまでとは打って変わって陽気な声でまくしたてるシステムに背を向け僕はゆっくりと防雨服を外してゆく


T49-03-1122
それが僕だ
僕には名前というものが無い
僕だけではなくこの世界に住む者は全て

かつては人の子として生まれ
親があり
呼び名も授かっていたのだろうが
それらはあまりに昔の事で思い出にもなれず
過去の暗闇の底にへばりついている



「…疲れた時は休むのが一番!!地下5F、喫茶“パプリカンヌ”では只今本格派インスタントコーヒーフェア開催中!!定価の半額にて……」


必要なものだけが残り
不要なものは淘汰されていく

それは名前であっても同じ事


脱ぎ捨てた防雨服を重たく抱え僕はエントランスを後にする


「…あなたの一日が幸せでありますように!!」



淘汰されずに残るものは
ほとんどが味気ないものばかりだ


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