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2005年12月19日(月) ■ |
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物部日記・『ヘルレイザーは静かに境を越えて・3』 |
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「最近の調子はどうですか?」 ヘルレイザーさんはお医者さんのように聞いてきた。私は少し考えてから、正直に言ってみた。 「まあ……、よくはないですね」 「あら、やはりそうでしたか」 とまあ、あんまり驚いていない感じで驚くリアクションを取ってくれた。 でも、嫌味じゃないんだから、不思議なものだ。 「物部さん、私はそんなに不思議キャラではありませんよ?」 「心を読まないでください。っていうか、ヘルレイザーさんって四回生なのでしょう? 先輩だったらもっとくだけて喋ってくれてかまいませんよ?」 「そういうキャラクターで売っていますから、こんな話し方をさせてください」 キャラ作ってんのかよ! 「物部さんも、そうでしょう?」 ……かなぁ?
ヘルレイザーさんはそうです、と勝手に肯定してその場を去った。三十秒後、手になにやらプラスチックボードを抱えた彼女は再び私のいる駐車場に来た。 私は、まだ説明書のタイヤ交換のページを見ている。 「あら、まだ終わっていないのですね」 「三十秒でタイヤ交換できません」 「慣れればできますよ。私も以前自動車整備工場でアルバイトしていた時がありましたから」 何者だあんた。 「手伝いましょうか?」 「悪いですよ」 「そうですね」 ……いや、本当は手伝ってほしいのよ。 しかし、説明書を一通り読めば大体わかったのでジャッキを差し込んで車を持ち上げ、タイヤを外しスペアを取り付ける。 「あら、お上手ですね」 「いや、これ誰でもできるでしょう」 「あら、慢心」 「そういう問題でしょうか」 とりあえず、これで少しは大丈夫だ。 「ヘルレイザーさん、昔アルバイトしていたその経験者さんに聞きたいのですがスペアってどのくらいもつんでしょうか」 「物部さん、スペアタイヤは消耗品ではありませんから、早くお店に持っていくことをお勧めします」 なるほど。しかし、そういうお店が開いている時間帯に暇があるのは二三日先のことだろう。 「それが、私も案外と時間に追われていまして」 「……まだ忙しいのですか?」 「うんにゃ、私はとっくに暇人です。でも、なかなか時間の使い方が下手で」 「駄目ですね」 きっぱり言われた。
「ヘルレイザーさんって不思議な方ですね。とても包容力のある方かと思えば突き放すことは突き放す」 生活面ではもっと奇妙なのだが、今回は割愛。すると、彼女はいつもの愛想のいい顔で言う。 「それは、物部さんが私のことを知らないからです。誰の身の回りにだって、おもしろい人とか変わった人っていますよね。みんな普通と変を持ってるものですよ。その『変』を見せるのがうまい人もいれば下手な人もいる。物部さんは私の変のところしか知らないだけ、なのだと思いますよ?」 それも、そうだった。 「とは言っても、どう見ても私って変ですよね。あだながヘルレイザーですし」 ヘルレイザーさんは愛想のいい顔で、続ける。 「でも私から見れば毎日朝倉に来たり毎晩帰りが遅かったり食べたくなったからという理由で夜中の一時半に天下一品まで車を走らせる物部さんの方が異常だと思いますし」
なんで知ってんだてめえ
向こうのほうから、今日一緒に小学校に挨拶に行く先輩が見えた。 ヘルレイザーさんは、いつのまにかいなくなっていた。 「僕、変なのかなあ」 「うん」 先輩は即答した。
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