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2005年12月16日(金) ■ |
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物部日記・『ヘルレイザーは静かに境を越えて・2』 |
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「お久しぶりです」 ヘルレイザー鎌足さんに会釈をした。 「お久しぶりです」 彼女も腰を折って丁寧に挨拶してくれた。
そして、 「これは多分スパナじゃないですよ」 「あら、つっこむところそこですか」 やっぱりヘルレイザーさんはヘルレイザーさんだった。
「あの、ヘルレイザーさんはなんで白衣着てるんですか?」 「私は理学部ですから」 「ああ、なるほど」
そういえば、知り合いの先輩は理学部の四回生でサークルが終わった後によく白衣姿で歩いているのを見たことがある。
けれど、駐車場の方まで白衣を着てくるというのは聞いたことが無いぞ? というか
「ヘルレイザーさんって、高知大学生だったんですか?」 「いいませんでした?」
まじかよ。 あんた社会人じゃないのかよ。
「はい、っていうか。理学部って、朝倉キャンパスですよね。なんでヘルレイザーさんは南国市のアパートに引っ越してきたんですか?」
「物部さんこそ、どうして朝倉に?」 誤魔化された。 「ええ、今日は小学校に演奏に行く下見をしに……っていやいや、ごまかされませんよ」 話をそぐらかされてはいけない。 「なんでそんな奇妙なことしてるんですか?」 ちょっと、変なことを聞いたかもしれない。 しかし、鎌足さんは普通に答えてくれた。 「他人から見たら奇妙でも、そうしないといけない理由があったりするんです」 「……はあ」 一体どんな理由だ? それを解明するだけで単行本が一冊書けそうだぞ?
しかし、私はワケアリというものに弱くて、それ以上聞くのはやめておいた。
「じゃあ、ヘルレイザー鎌足さん(源氏名)は高知大学理学部の四回生だということで落ち着きましょう。どうして駐車場に?」 この人は原付にのっているはずである。 「ええ、隣の原付置き場に忘れ物を取りに来たら、何か大きな人影が車の陰にあったので車上荒らしかと近付いてみたのです」 私は泥棒扱いだった。 「そうしたらそのでかい図体は私だったと」 「はい」 「……またお会いできてよかったです」 「はい、私も」
やっぱり、人と会話をするのは心が落ち着くものだ。
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