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海老日記
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2007年07月22日(日)
伯爵長編・カンテラ伯爵と透明人間Z・7


「そう言えば、佐々木女史。以前話した僕のそっくりさんって今はどうされているのですか?」
 佐々木女史は言われて気づいた、という風な貌だった。
「ああ、Z伯爵? あん人は学校やめて東京に役者の勉強に行ったよ」

 昔なら濃いなあ、とか思ったのだろうけれど、大学生を四年ほどやってると、そういう選択も世の中にはアリなんだということもわかるようになった。
「そうですか……結局喋ることなかったなあ、そっくりさんだったのに」
「うん、ドッペルってたやんね」
 そんな動詞聞いたこともない。


「そう言えば、佐々木女史は最近目立つ服着ませんね」
「うん、まあ毎日あんな服着るわけじゃないし……。そういう伯爵こそ作務衣着いへんやん」
「着潰して破れちゃったのです。着すぎて直せないくらいになっちゃって」
「お気に入りやったんやね」



 僕は何故か佐々木女史と親友になるのだけれど、その友人のZ伯爵とは何の関係も持たずに終わった。
 見た目は激しく変わっていたけれど、正体を知ることができず。
 もし会話をしていたら、どんな風になっていたのだろう。
 そんなことを、たまに考える。


 昔、もしああしていたら。
 最近、そんなことを考えることが多い。