いつもは名札をつけない保育園の先生と子どもたち、4月に限っては名札をつけている。新しいお友だちや先生がいるので、名前が覚えられるようにとの配慮だ。
ある日いつものように登園すると、教室にある小さなテーブルの上に名札がいくつか並んでいたので、ルンバと一緒に取りに行き、試しに 「ルンバくん、名札つけようか。ルンバくんのはどれ?」 と聞いてみた。 するとルンバ、何の迷いもなく自分の名札を手に取るではないか!
と言っても決して文字が読めるようになったわけではなく、どうやらいつの間にか自分の名前の文字の形を覚えていたらしいのだ。それでも私は驚いてしまった。
そしてその後。ルンバは「す」というひらがなに、著しく反応を示すようになった。「す」という文字を見つけると指差し、「ルンバ!」と叫ぶのである。実はルンバの本名には「す」という文字が含まれているのだ。
「す」は日本語の文章において頻出する文字である。例えば、語尾の「です・ます」。「〜する」。そのほかにも「すごく」だの「すぐ」だの、よく使う言葉に含まれている。ルンバはテレビのテロップや新聞、絵本、看板、バスや電車の中、とにかくありとあらゆる所で目ざとく「す」を見つけ、そのたびに「ルンバ、あったよ!」と嬉しそうに報告するのであった。でも、「す」以外の文字には、何の関心も示さない極端な彼なのだった。
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