夢見る汗牛充棟
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2000年03月06日(月) 紙とペン

紙とペン






鏡台の前に腰を下ろし

真正なひとがたを創ろうと

真白い紙を眼前に据えるが

おんなは一文字も著さない

真新しい銀色のペンを

人差し指で弄ぶばかりだ

よく見れば

おんなが書こうとするたび

銀色のペンはおんなを打った

打たれるとおんなは涙を零し

剥げかけたマニュキアを見つめていた

真白い紙が

装いの言葉は要らないと言った

だから 鏡の己を凝視しながら

おんなは途方に暮れていた

ペンと紙が見張っていた

永い時間が経ち

おんなは俯いて首を振ると

マニュキアの小瓶を手に取った

ペンは二度とおんなを打たず

紙も何も言いはしなかった



恵 |MAIL