夢見る汗牛充棟
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紙とペン
鏡台の前に腰を下ろし
真正なひとがたを創ろうと
真白い紙を眼前に据えるが
おんなは一文字も著さない
真新しい銀色のペンを
人差し指で弄ぶばかりだ
よく見れば
おんなが書こうとするたび
銀色のペンはおんなを打った
打たれるとおんなは涙を零し
剥げかけたマニュキアを見つめていた
真白い紙が
装いの言葉は要らないと言った
だから 鏡の己を凝視しながら
おんなは途方に暮れていた
ペンと紙が見張っていた
永い時間が経ち
おんなは俯いて首を振ると
マニュキアの小瓶を手に取った
ペンは二度とおんなを打たず
紙も何も言いはしなかった
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