秋の夜長を思わせる涼しい風が背中を押す。横を見上げると、白く輝く月が、僕を追い掛ける。風にざわめく木々の音と、かかとがアスファルトを叩く音しか聞こえない。月に背を向けると、風がネクタイを跳ね上げて首に巻きつける。勝負はまだ着いてない。月がそう囁く。終わりの無い勝負は、また明日……一度なだめるように見上げてから、ドアを開ける。部屋からあらためて見た月は、淋しげに街を見下ろしていた。