久し振りに月を眺めた。 霞がかかって、ぼんやりと彼は見下ろしていた。ぼやけた輪郭が少しだけ優しく見せる。 何日振りだろう? 夜空を見上げていなかったわけではない。むしろ、空の下に出る度に見上げてばかりいた。 お伽噺のように、温かく優しくたたずんでいた。 歩を緩める。 吐く息が白く、体は冷たい風に逃げ出したいくらい小刻みに震えているのに、見上げている自分の心は、温かい。 たとえ見えていなくても、そこに、いる。 親指をそっと立ててみせる。 爪に隠れてしまいそうなくらいの大きさにしか見えないのに、その姿を見ると、ほっとする。同じ顔の日は無い。 でも、同じもの……。 自分が自分のものではないように思えても、紛れもない自分。どんなに竹林に身を隠そうと、そこにいる事には変わりは無い。 変わりは、ない……。
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