「隙 間」

2007年12月26日(水) エール

「だまされるな」

 小さく呟く。

「誤魔化されるな」

 強く首振る。

「目を閉じるな」
「終わっちゃあ、いない」
「涙を拭え」
「気を抜くな」

「もう、いいだろう」
「よかったじゃ、ないか」
「あとは任せとけ」

 誰かが肩を叩き、背をさすってくれる。

「まだまだ、これからはじまるんだ」

 耳障りな囁きが、うなじを逆立たせる。

 ここまで、死ぬ気で走ってきたというのに。

 これ以上、さらに走らせようとするなんて、できっこない。

「よくやった。もう、膝を折っておやすみよ」

 あごをやさしく撫でるようにわたしを背中から包み込み、心地よい重さをかけてくる。

 いま、このままにまかせて膝を崩してしまったら、どれだけ気持ちよく地に這いつくばれることだろう。

 もう、いいや。

 右膝が「カクッ」とひと鳴きする。
 あとは左の膝がそれにならって、やわらかにわたしを受け流すだけでいい。

「ビクンッ」

 左の膝はわたしを受け止め、そして、突っぱねた。

 その膝に両手を重ね、わたしは力を入れる。

 地面が勢い遠のき、空が交わるずっと先を見つめる。

 まだ、あそこまで。
 灰色の雲が続く、その切れ目まで。

 わたしは、走りだす。

 足を止めたら、だめだ。
 きっともう、立ち上がることすらできなくなる。

 沿道の声援は、追いかけてきてはくれない。

 わたしは、追い越してゆくだけ。

「まだまだ、これから」

 わたしは、頬の汗を親指で払い、その手を握りしめる。

 わたしはわたしを握りしめ、いのちのかぎり、走りつづける。

 たとえ、折れそうになったとしても……。


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