白日の独白
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2006年10月17日(火) 桃源郷

彼女の怨みは僕自身に対するものを超えて、彼女の眼に映るもの全てに向けられているようだった。
彼女は執拗に、そして回りくどい遣り方で僕を責めた。
僕は彼女の怒りを(或いは悲しみを)何とかいさめたいと想っていた。
けれどそれは決して叶うものではなく、またそうするべきではないことを理解していた。
だから僕に出来ることと言えば、彼女から逃げることと彼女の感情をのみこみ続けること位だ。

僕は神社に立っていた。
池にはグロテスクな色をした蓮が風にゆろゆろと揺れていて、少し離れた所では満開の桜がその花弁を散らしている。

蓮と桜。
大好きな花。
桃源郷に咲く花。

彼女は黴臭くて狭くて薄暗い部屋で眠っていた。
僕は彼女が目覚めるのを怖れ、震える手を叱咤して素早く彼女の手足を紐で縛り、折り畳んで箱に詰める。
何故そんなことを急にしたのかはわからない。
けれど彼女の入った箱を見ると少しだけ安心出来た。
同時に彼女を仕舞い込んだ所で何の解決になるのだろうと小さく笑う。

此処は僕の桃源郷で、
此処では僕は苦しむことしかできない。


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