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公園とベンチ 7 2006年10月01日(日)
彼女が公園に来なくなったのはそれからしばらくしてからだった。
ぼくはひとりベンチに座り、そして・・少しの安堵感をもった自分に愕然とした。会う痛みより会わない安堵感に逃げた自分に激しく嫌悪した。
ぼくは彼女に会わなければならないと思った。会って彼女の手を握らなければならない、会ってその髪にいつまでも触れていなければならない。そう思った。ぼくは彼女を守らなければならないのだ。こぼれ落ちた砂はもう掌には戻らない。だけどもう一度少しづつでもぼくが新しい砂を掬って、そしてまた溜めていけばいい。そう思った。
ぼくは彼女の家に向かった。 彼女の家はすぐわかった。
辺りはすっかり薄暗くなっており、彼女の家にもすでに灯りが燈っていた。 曇りガラス越しに彼女の姿があった。おどける弟に何か文句を言ってるような彼女の声がした。久し振りに聞く彼女の声は、いつもぼくと話しているときよりもはるかに若かった。母親がやってきてふたりに何か言ってるようだった。そして彼女のシルエットは消えた。
ぼくはいつの間にか泣いていた。 涙がこぼれ落ち止まらなかった。 悲しさからではなく辛さからではなく、ましてや久し振りに彼女を感じた嬉しさなどではなく、ただ涙が溢れて止まなかった。彼女を初めて見たときのあの胸を突き刺す感情。あのときとよく似た感情がよみがえり、でもその感情が何なのかぼくにはまるで理解できず、激しく嗚咽した。
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