くじら浜
 夢使い







公園とベンチ 8   2006年10月02日(月)

公園にベンチがあった

公園にベンチがふたつあった

ある日ふたつのベンチはひとつになった

ひとつのベンチに彼と彼女が座った

ベンチは笑った

彼と彼女が笑ったからベンチも笑った

いっしょに笑った

雨が降ったらベンチは泣いた

彼と彼女がこないからベンチは泣いた

彼と彼女が座らないからベンチは泣いた

雨に濡れるからベンチは泣いた

雨が止んだのでベンチは待った

彼と彼女がくるのをベンチは待った

彼と彼女が座るのをベンチは待った

でも彼と彼女はこなかった

夕日がおちるまでベンチは待った

いつまでもベンチは待った

でも彼と彼女はこなかった

ベンチは泣かなかった

彼と彼女がこなくてもベンチは泣かなかった

彼と彼女が座らなくてもベンチは泣かなかった

ベンチは泣くまいと思った

もう泣くまいと思った

何があってももう泣くまいと思った

ある日ひとつのベンチはふたつになった

砂場に小犬がきた

小犬を追いかけて少女がきた

ベンチはもしやと思った

もしかしたら彼と彼女がくるかもしれないと思った

ベンチは待った

夕日が落ちるまでベンチは待った

でも彼と彼女はこなかった

それでもベンチは泣かなかった

もう泣くまいと決めたからベンチは泣かなかった

彼と彼女がこなくてもベンチは泣かなかった

彼と彼女が座らなくてもベンチは泣かなかった

少女と小犬が帰って

夕陽が

ベンチを射した

まぶしいと思って

ベンチは

静かに目をとじた



だれもこない公園にベンチがあった

だれもこない公園にだれも座らないベンチがふたつあった

うしろの樹だけがゆれていた。



       おわり。








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