2007年01月09日(火) |
「彼の密かな憂鬱」 (奥村視点;奥村×山代) |
クールな私の恋人は、この私を、めったに褒めてはくれない。 けれど、唯一、私の料理には、心からという表情で、「おいしいです」と云う。
だから、私はこうやって、けなげに料理に励んでしまうわけだが…
が、はっきりいってこの努力、愛しい相手をもてなすに、賢い男の選択と、到底云えない。 そう、知られているように、食欲と、性欲は、連動するもので…
せっかく彼が、その気でも、私が自慢の手料理で、その食欲を満たしたら、すなわち彼の欲望も、まあちょっと、落ち着いてしまうわけだ…
だから、こうして料理をしながらも、考え込むのだよ。 もし今日も、例により、お預けを食ったら…
いったい私は、どうしたらいいかと……
(…実に、逢瀬も二週間ぶりと云うのに……)
「――奥村さん、まだですか?何か、魚の焼け焦げたような匂いが…」
「…いや、大丈夫だよ、啓。…すべては順調だ」
「じゃあ、料理を楽しみに、座って待ってます。――あなたの料理の腕だけは、認めてるんですよ」
…あぁ、恋人よ。
罪な、微笑みを…
――三ツ星級の、この腕が、今は、恨めしい…
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