2005年07月12日(火)  「麦撃機の飛ぶ空」 神林長平

■麦撃機の飛ぶ空     著・神林長平

表題作でもある「麦撃」が面白かった。飛行好きな事もあるけれど。
ソドムとゴモラをもじったような、砂漠の中の小さな村同士の戦い。
どちらの村も「麦」しかない村で、飛行機の材料も燃料も麦。
皆の食い物も「麦」。なんでもかんでも麦で形成されている。
お互い生命線である麦畑を叩くのが戦法。

しかし、食料でもある為、そうまた逐一襲撃できるモノでもない。
ちなみに、なぜそこまでいがみ合っているのかは定かではない。
あまりに長い時を経過しすぎて、薄れたんだかなんだか…。
それにしても凄惨な戦争風景ではある。麦畑っていうので一見のどかなんだが。
相手の操縦士を生きて捕まえたら、村中総出で石つぶての刑を執行。
その後はきちんとおいしくいただき、明日の活力に。

そんな中、メインの若者2人が敵の村に乗り込むが、
襲撃成功後、帰投中に不時着してしまう。
飛行機はおシャカ。飛んで村には帰れない。むしろ、敵の村の方が近い。

とにかくなんとかしよう、と言う時、麦燃料が目に入る。
なんで食えるのかが不思議だが、2人はこれを乾かして食べる。
そして、今まで経験した事無いほどの満腹感を得る。
ここらへんが、貧しさを強調していて泣けてくる。
その後、敵捜索機に見つかり、あぁ、どうしよう。って所で終わってしまう。

まぁ、多分、おいしくいただかれるのだろう。

かなりの絶望感を味わえる作品だった。


「敵に食べられる位なら、仲間に食われたい」とか、「やつらは俺らを食用動物にしたいんだ」という台詞から、日常茶飯事で食人行為が為されているのが分かる。
戦闘妖精雪風でも後部座席の人がシチューになっているが、この作品の他、他の短編でもかなりカニバリズム傾向が見られる。

「射生」という作品でもそうだったな。
冒頭のシーンは、主人公がヘルメットの中の肉片をむさぼり食うところ。

この作品は、性的絶頂感を迎えると、脳みそ爆発してしまう星、その星に取材に来た人間――と言っても機械とシンクロできる様改良された人種で、その特技の変わりに生殖機能や性欲の一切合切を失っている――の話。

その星には囚人が送り込まれる様で、つまりは流刑の星。
しかし、何も檻の中で生活するわけではなく、殺し合って生き抜くのだ。
生きるか死ぬかの時に、性的快感求めてられないですな、確かに。
幾つかの集団に分かれ、永遠に続くゲリラ戦を繰り広げる。
配給される少ない食料を巡り、奪い、戦い続ける。ちなみに敵も重要な食料。
その中の一つの集団に主人公は入るのだが、記者扱いはされず、コンピューターを操れる特技をかられ、兵士として戦う。

夢精して死んだ人はシチューにされたり、囚人一掃の為、フェロモンを出す船が来て、それに当てられ全滅したりする。
あほらしいけど、地獄絵巻である。
不感症は幸いである(そういう問題ではない)

ネタバレすると、男性器に見立てた核爆弾が、女性器に見立てた救助船に向け「発射」されてお終い。
主人公はその核爆弾のシステムとシンクロしており、自分を助けに来た船に向けて打つ瞬間(もちろん止めようとしたが無理だった)、絶頂を経験して果てる、と言った内容。
エロ(性)は生きる為に必要なんだなぁと思った(意味不明)

本文に書いていたが、「官能と無縁な美は存在しない」と言った人がいるらしい。
これは、大いに分かった。エロと芸術は切っても切れませんね。
美の女神ヴィーナスの子供はエロス(キューピッド)だものね。
ヴィーナス自体も、愛情=肉欲の化身かねる事も有るしね。
じゃなきゃ、ボッティチェリの名画は、裸でいる必要はない!

服着ろ!服を!!


…カニバリズムからやや(?)脱線しましたな。エロに走った。
なんにせよ、珠玉の短編集でした。
恐るべきは、現在のネットウイルス弊害や、ブロードバンド闘争を暗示させる作品が、20年も前に書かれていたと言う事。
すげぇっす、神林さん。

余談ですが、戦闘妖精・雪風がやっとOVA完結します。
メイヴのプラモを今の内に買っとくべきかな…。
あれ以上のかっこいい飛行機、見た事無い!!
現実でも2次元、3次元でも。
カラーリングが渋いよな〜、シルフよりメイヴだな〜。




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