カタルシス
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2002年12月29日(日)  悲劇の終焉 



3時間遅刻してイベント会場に到着。開場は10時だから着いたのは13時くらい… 参加許可証を私が持っていたので、先に来ていた手伝いの友人は物を売ることも出来ず 軽く買い物をする他はずっと留守番をしているしかできなかったようだ。

面目次第もございません(土下座)

大慌てで準備会デスクまで参加手続きと見本誌の提出をする。これでやっと店?が開けるようにはなったが、すっかり力を使い果たした私は、かなりのグロッキー状態のまま店番をしなければならなかった。
買い物なんてしに行く気力は残っていない(黙) 今まで待たせてしまった友人に「思う存分お出掛けして来て下さい!」と平謝りするのが精一杯だ。


何とか半日をもち堪え、次なる予定の地へと移動を始める。
何とこれから下北沢でライブだったりするのだ(苦笑)
ああ、今日は何か 本気で死ねるかもアタシ…

今年最後のT29Jなので、当然のように花緯さんやTさんも愛知から遠征して来る。私はイベント会場で合流していたOさんと2人で現地を目指していた。
大荷物は駅のロッカーに預けて、待ち合わせの時間まで 一旦ひと休み… 疲れてはいたが眠いってことは全然なく、移動の電車内くらいでしか睡眠をとっていない“徹夜”状態は、かえってテンションを上げる効果を発揮していた。

下北沢251、前回来たのはSBワンマンの時。ちなみに初めて来たのは何を隠そうブルームさんだったんだよね(笑)当時進行役をしていたローカル局の番組収録なんかもあって、今となっては懐かしい思い出。確か12/27で関東では年内最後のライブだったから忘年会と銘打った打ち上げみたいな会が催されて、私もOさんもMさんもそこに同席していたんだった。
そんな251。

初っ端から勢いとばして演奏を始めたT29Jの様子に、年内最後ともなると気合いが入るのかしら〜と暢気に思って見ていたら、合間のMCでボーカル・スージーがとんでもないことを言い放った。

「僕ら次のライブは決まってない、っていうかもうないんだ。今日でお終い。…これって解散っていうの?」






…は?







スージーの上擦った声から冗談じゃないんだってことは、嫌になるくらい解った。困り笑いのモッティも、奥でいつもみたいな笑顔を見せているサンダーも、誰も「冗談だよ」と言ってくれそうにない。
周囲がザワつき出した。どうやら事態を飲み込んだようで、すすり泣きや落胆の声が聞こえてくる。
私はといえば、あまりのことに口が利けなくなっていた。

隣で花緯さんがヤダヤダ!とむずがる声も、その奥で泣き濡れた瞳をメンバーに向けているYuさんも、みんなみんな遠くにいる人みたいに見えていた。ライブハウスの喧騒も私の鼓膜を刺激しない。

なんだ これ。

寝ていない所為で頭が働かなくなったのか?
何も感じない自分に不安を感じて、隣や後ろをキョロキョロと見回してみた。
見えてるけど、聞こえてるけど、感じてるけど …やっぱり感慨は ない。

なんだよ これ。

「解散すんのに新曲、前向きだろ?」
スージーがそう言って、初めて聴く曲を演奏し始めたけれど、聞こえていたけれど、その時はただ耳をすり抜けるだけで、何も残りはしなかった。

なんなんだよ。

気付いたらライブは終わっていて、周りのみんながステージに詰め寄ってメンバーに向かい、各々の言葉をかけていた。
急に音声がONになった感じがした。

「なんで?どうして? 許さんぞぅ!」と詰め寄る人もあれば、「今までありがとう、元気でね…」と別れの挨拶をする人もあった。
そんな様子を近くで見ながら 私はハッと思い出し、奥に向かって

「サンダーさん、サンダーさーん! 折れたスティック頂戴!」と声を掛ける。

一旦その場を離れようとしていたドラムのサンダーが、足元を探って木片を拾い上げた。
演奏中スティックをカチ折っていたのを見ていたので、後で言おうと思っていたのだ。
解散宣言のショックで忘れそうになったが、ギリギリ間に合ったみたいでホッと胸をなで下ろす。

ステージを降りる際に近寄って行った私にサンダーはニコリと白い歯を見せて、半分になったスティックを手渡してくれた。
「はい。でも、よく見てたね。」
「当然!いつも見てたんだから、今日に限って見逃したりする訳ないじゃん。」
務めて明るく。 と、いうか実際暗い気分ではなかったから、いつもと同じようなテンションで話しかける。
多分サンダーが相手だったから大丈夫だったんだと思うけど。
これが、申し訳なさそうに「ごめんね」を連呼するモッティや、不敵な笑顔を浮かべているくせに真っ赤な目を潤ませて言葉少なにしているスージーだったら、こうは自然に喋れなかっただろう。

「ホントにやめちゃうの?」
「うん、そうみたい。」

「みたい、って(苦笑)」
「いや、本当にそういう感じなんだよ。マジで。」

「ふうん、そっか。じゃあ… お疲れさま。」
「うん、ありがとうね。」

こんなやり取りをして、その場は彼を見送った。他の2人はまだ誰かしらに掴まっていたけれど、そっちを気にする前に後ろから抱きつかれる。
Yuさんだった。

彼女は早くからずっと彼らを応援していた人だから、この事態には人一倍ショックを受けたに違いない。
何週間か前にとても可愛がっていた愛犬を亡くしたと言って元気がなかったのを、今日のライブで浮上するんだ。と言っていたのに、浮上どころか落とし穴に突き落とされたような結果になってしまった。事情を知っているだけに私もどう声をかけたら良いものか困ってしまい、体を反転させてハグし合う体勢になり背中をポンポンしてあげるしかできなかった。

花緯さんがスージーを追った弾みで近くのテーブルにぶつかり、そこに置いてあった録音用のMDプレイヤーを床に落とした。解散発表でテンパっていた彼女が、そのことで更にテンパってしまったのを苦笑いで見ていたら、どうやら落ちたのは私のMDだったようで 何度も「ごめん!」と謝られた。
大丈夫、大丈夫。と言って落ち着かせながら、実際しばらく使いそうもないしな… なんて皮肉めいたことを考えた私は、自分を含めた周囲の誰もが常軌を少しずつ逸しているんだと、うっすら気付いたのだった。


外に出て、出待ちしている人達の姿を 通りの向こう側の歩道に腰掛けてボンヤリ眺めていた。

ライブハウスの熱気で火照った体は、12月の夜風も凌げる程度の余力を残している。というか、もしかしたら微熱があったのかも知れない(苦笑)寝てなかったし、ここんとこ心労続きで疲労はピークに達してるハズだ。今平気そうにしてられるのはきっと、不眠によるハイテンションと緊急事態に対応しようとする火事場の何とやらのお陰に違いない。

視線を少しズラしてライブハウスの隣にあるコンビニを見ると、見たことのある人影に気付く。
…あれ?
「清水さーん。」
キョロキョロとしてからこちらに気付いた人影は、前のめりになって私が誰かを確かめようとしている風だ。
両手を振って、おーい。と声をあげたら、小走りでこちらへ寄ってきてくれた。

「覚えてます?」と尋ねたら「覚えてる覚えてる!」と笑顔をくれる。ついこの間ライブがあったカムステのベース・清水さんだった。そういえば別に手伝っているバンドのライブが29日にLOFT(251のハス向かいにあるライブハウス)であると言っていた。同じ下北沢でその日は251に行くんだよ、と私も話していたので 彼は通りの向こうを指して
「あっち?」と言った。
「うん。」と応えて、「何かね、急に解散とか言われて皆で大騒ぎしてるトコ。」と添えた。
「へぇ… そうなんだ。」

それからどうもない話を暫くしていて、やたらと薄着な彼に気がつく。
「あれ、清水さんライブはもういいの?」
「あ?うん、大丈夫。休憩に水買いに来だけだから。」
「え!」
全然大丈夫じゃないと思うんですけど!(汗)

「きっとみんな待ってますよ!なんか寒そうだし、呼びつけちゃってごめんね。」と慌てて追い返そうとしたら
「まー、色々あっても何とかなるもんだよ?」何てことを言い残してLOFTの入口へ向かって行った。
「…はぁ?」なんの話?

でも、階段を降りる直前に振り返り軽く手を振ってくれたのを見て 唐突に思い当る。
「!あ。」
もしかしてT29Jの解散にヘコんでたのを元気づけてくれたのか?

「お礼言うんだった…(反省)」
全く、“はぁ?”じゃねーだろ“はぁ?”じゃ。
やっぱり頭が動いてないみたいだ。


それから残っていた人達に声をかけて、連名で花束を渡す算段をつけた。発案者のAさんと一緒に近くの花屋でブーケを3つ作ってもらう。それぞれ違うものにしてもらって、3人の各々のイメージに合わせて渡すことにした。

滅多に出て来なくなったT29Jのメンバーも、厳密にはスージーも 今夜ばかりは出てくるだろうと。
出て来なかったら呼び出してやる!くらいの意気込みがあったから、花束は絶対にみんなで手渡すことに決めた。誰が何と言おうと本人達に出てきても・ら・う!(炎)

しばらく待っていたらメンバーが階段を上がってきた。
さすがに今回はゆっくり相手をしてくれる気配だったので、一同ホッと息を付く。
花束の贈呈、ファンの子たちとの記念撮影、語らい。それらしい雰囲気に包まれて、段々実感が湧いてくる。

ああ、本当に解散すんだ〜…

私も皆に混じって写真を数枚撮らせてもらった。
3人揃って一緒に撮ってもらうなんて最初で最後だね(苦笑)
ちゃんと笑えてる自分が 少しだけスゴイと思った。

メンバーが去った後は未練を断ち切るように移動。
いつもの面子でミスドに寄り、ちょっくらダベってから解散した。

今夜はちゃんと布団に入って

ゆっくり眠ろう。


おやすみ。



それから、








バイバイ。


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