Tonight 今夜の気分
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2008年01月08日(火) 品川の包丁少年 = 他者軽視の蛮行



「 人間がもっともすぐれた才能を示すのは、意識的に

  勘違いをするという能力においてである 」

                   アナトール・フランス ( フランスの小説家 )

It is in the ability to deceive oneself that one shows the greatest talent.

                                 Anatole France



品川区の商店街で、16歳の少年が刃物を振り回し、5人を傷つけた。

幸い、死者は出なかったが、殺意はあり、殺人未遂容疑で逮捕された。


特定の誰かを狙った犯行でなく、いわゆる通り魔事件だが、警察の取調べに少年は、「 誰でもいいから皆殺しにしたかった 」 と供述している。

アルカイダや北朝鮮なら、「 ドラフト1位 」 に指名されそうな逸材なのだが、残念なことに日本では、単なる狂人としか評価されない。

実際、この少年は精神科に通院していたのだが、10代の若者が精神科に掛かる数は増え続けており、いまや大きな社会問題になっているという。

大人になってストレスを感じ始めた人からみると、「 若い頃は楽しかった 」 とか、「 子供のくせに生意気な 」 と、あるいは思うかもしれない。

また、私のように “ さほどストレスを感じない大人 ” には、「 最近の大人がストレスを曝け出すから、子供にまで伝染している 」 ようにもみえる。


昔に比べると、うつ病をはじめとする精神病や、各種の神経症などに対し、「 世の中の理解 」 は高まってきたが、その効果はいかがなものか。

子供の個性を理解し、尊重して、のびのびと自由に育てようという主旨から始まった 「 ゆとり教育 」 が失敗したように、これは逆効果だったと思う。

もちろん、「 重症 」 の患者さんにとっては、精神科の敷居が低くなったことが救いになったかもしれないけれど、最初から重症という人は少ない。

大多数は気の持ち方次第で、病人になる一歩手前で踏み止まれる状態にあり、安易な治療で誰もが病人に 「 認定 」 されるのは望ましくない。

私の周囲にも、医師の治療を受け 「 自分は精神病なんだ 」 と自覚をしてから、ますます、その症状が重くなった人物が複数名いる。


人間は本来、常に自分を高く評価していたい動物であり、そのために勉強もするし、仕事に精を出し、自己肯定感を積み上げていくものである。

ところが、「 あなたは精神病ですよ 」 と宣告されたことによって、そういった正攻法での自己肯定感を求める作業から、逸脱してしまう人が多い。

もともと自信の無かった人は、すっかり意気消沈して内向的に陥り、逆に、もともと気位の高かった人は、別の方法で “ 偽りのプライド ” を求める。

具体的にいうと、自分が向上する代わりに、他者の能力を批判的に評価したり、軽視することによって、自己の 「 有能感 」 を得ようとするのだ。

学生の例を挙げると、テストの結果が悪かったとき、明らかにその教科が苦手な友達に 「 何点だった 」 と尋ね、安心感を得るようなものである。


アホな友達が少なかったりして、身近に 「 自分よりも劣る知人 」 が見当たらない場合、他者軽視の対象は、情報量の少ない他人へと向けられる。

周囲の誰かではなく、よく知らない政治家や、顔も知らない役人や、マスコミや、外国人などに対し 「 奴らはバカ 」 と罵り、それで自己肯定感を得る。

その究極にあたるものが 「 大衆は劣等 」 という意識で、○○党に投票した奴はバカとか、○○国民はバカといった、曖昧多数な他人蔑視に至る。

今回の事件を起こした犯人が、「 誰でもいいから皆殺し 」 と語った背景にも、「 劣等な大衆は殺してもかまわない 」 という深層心理が潜むようだ。

他者軽視は、他人の生命を粗末に考えるだけでなく、「 こんなはずではない自分 」 を他人と捉え、自殺に走る危険も孕んでおり、注意が必要である。


精神病で悩む方々に対し、キツイことを言うようだが、「 自信を喪失することに耐える覚悟 」 がなければ、治療が逆効果になる危険は大いにある。

知人の精神科医は、治療前にその点をよく説明して、病名が患者に与えるインパクトというものに対し、警戒を怠らないように努めているという。

しかしながら、近頃は 「 うつ病と診断し、薬を与えるだけ 」 の安直な医師も多いらしく、患者に対するケアが十分とはいえない。

精神病の場合、ただ治療するだけでなく、生活習慣や、心構えについてのフォローが必要であり、諸外国に比べ日本は、その点で遅れている。

今後、このような 「 触法精神障害者 」 による事件を減らすためにも、日本の精神医療技術が発達することを、切に希望する。






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