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2008年02月25日(月) ロス疑惑 : 27年目の急展開



「 多くの人が、運のせいで罰を免れたが、恐怖を免れた人はいない 」

       ルキウス・アンナエウス・セネカ ( 古代ローマの政治家、詩人 )

Fortune frees many men from punishment, but no man from fear.

                          Lucius Annaeus Seneca



日本と違ってアメリカには、殺人事件の 「 時効 」 がない。

有力な証拠が見つかったり、関係者の依頼があれば、捜査が再開される。


1981年、ロサンゼルスで 三浦 和義 夫妻 が何者かに銃撃され、夫が足に重傷を負い、妻が頭部を撃ち抜かれて死亡するという事件が起こった。

事件当初は、強盗殺人事件として扱われたが、1984年に 「 週刊文春 」 が 『 疑惑の銃弾 』 というタイトルの記事を連載してから、様相が一変する。

記事は 「 夫が保険金目当てで仕組んだ事件ではないか 」 という内容で、事実、彼は保険会社3社から 1億5500万円の保険金を受け取っていた。

その後、事件の3ヶ月前に 夫の愛人が妻を鈍器で殴打したことが明らかになり、殺人未遂容疑で、愛人に二年半、夫に六年の懲役刑が確定した。

殺人については、実行犯と思われる人物まで逮捕されたが、証拠不十分で無罪放免となり、夫についても、2003年に最高裁で無罪が確定している。


これら一連の事件は 『 ロス疑惑 』 とも呼ばれ、おそらく40代以上の方なら当時の騒動、マスコミの加熱ぶりについて、よく覚えておられるだろう。 

和義 氏の無罪は最高裁で確定されており、同じ事件、同じ罪状で再び同じ被告が裁かれることはないため、誰もが 「 過去の事件 」 だと思っていた。

ところが、事件発生から27年の歳月を経て、ロス市警は 和義 氏 を滞在先のサイパンで逮捕し、身柄をロサンゼルスに送致することを決めた。

日本の捜査当局が説明を求めた際、市警側は 「 新証拠が見つかった 」 と話していることも明らかになり、事件は急速に進展しているようだ。

なぜ今頃になって 「 新証拠 」 が出てきたのかは定かでないが、たとえば、別件で逮捕された犯人の自供などが、可能性としては考えられる。


昭和の犯罪史上に刻まれる大事件だが、メディア各局は慎重な報道姿勢をとっており、「 やはり犯人だったか 」 というようなコメントも少ない。

実は過去において、夫の 和義 氏 からマスコミに対する名誉毀損の訴訟は 476件にものぼり、その 80%で 和義 氏 は勝訴している。

今回も、もし短期間で 「 証拠不十分 」 などの理由で保釈された場合のことを思えば、うかつな発言は慎むべきと考えているのではないだろうか。

当時と今とでは、冤罪に関する人権上の意識も違うし、ほぼ犯人に間違いないと思っても、刑が確定するまでは軽率な発言をできない仕組みがある。

メディアにとっては、「 冤罪か、真犯人か 」 よりも、証拠不十分で 「 冤罪になる可能性はないのか 」 が重要で、そういう意味では昔より腰が重い。


たしかに、無実の人に罪を着せるような悲劇は防がねばならないが、かといって、行き過ぎた人権保護が 「 治安の低下 」 を招くのも問題はある。

この事件を例に挙げると、容疑者の 和義 氏 は 「 殺人容疑は証拠不十分で無罪 」 だが、「 殴打傷害事件に関しては有罪 」 とされている。

つまり、声高に妻殺しが冤罪だと叫んでも、「 何の罪もない善人 」 とは違うわけで、「 愛人を使って妻を鈍器で殴らせた人 」 に変わりはない。

疑わしきは罰せずと語る以前に、「 疑われるような真似をする人が悪い 」 という倫理もあるはずで、それはメディアも伝えてよいように思う。

いづれにせよ、日本の検挙率が下がり、加害者の人権を守る動きが進んだところで、いつか悪事は身を滅ぼすことを、この事件は教えてくれている。






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