| 2008年02月26日(火) |
豊予海峡に棲息する幻の魚 |
「 われわれの知識は、無知の大海に浮かぶ小島である 」
アイザック・バシェヴィス・シンガー ( ユダヤ系アメリカ人作家 )
Our knowledge is a little island in a great ocean of non-knowledge.
Isaac Bashevis Singer
今夜は 「 フグおいしぃ〜、すごくおいしぃ〜♪ 」 と、フグを食べに行った。
普段は “ 爪に火を灯すように ” 暮らしているが、年に一度の贅沢である。
20年近くも前から贔屓にしている ( といっても、年に一度しか行かないが ) 老舗で、美味しいけれど、外装は古汚く、そのくせ値段は一丁前に高い。
そろそろ70歳になるという店主に代わり、最近では息子 ( 30代後半 ) が仕切って、伝統の味と、強気な価格を受け継いでいる。
無口な親父と正反対に、息子は無類の 「 お喋り 」 で愛想がよく、そのうえ 「 お笑い好き 」 なので、毎回、店に行くと面白い話題を提供してくれる。
今回も、鍋が煮えるまでの間に、『 豊予海峡の幻の魚 』 という一席を披露してもらったが、たしかに 「 ツボ 」 にハマった。
フィクションでなく、常連客をめぐる実話であるらしいが、なるほど、グルメな常連客の老人が、あたかも勘違いしそうな内容の話だった。
豊予海峡というのは、瀬戸内海と太平洋の境界線に位置し、年間を通じて水温の変化が少なく、魚の餌となるプランクトンが豊富で、潮流が速い。
この海域に生息する サバ や アジ は身が締まっており、どの季節に食べても適度な脂肪量が保たれ、特に、刺身で食べるのに適しているという。
また、回遊性が低く、この海域に根付く習性があるので、外来種の寄生虫がつく心配も少ないから、「 安全で美味しい魚 」 として高値で取引される。
これこそが、九州大分県の佐賀関で水揚げされ、いまや全国的に知られる高級ブランド魚の 「 関サバ ( せきさば ) 」、「 関アジ ( せきあじ ) 」 だ。
海底の起伏が複雑で、波が高く、魚網を使えない事情から 「 一本釣り 」 が行われ、魚にストレスが加わらず、傷が付きにくいのも高値の一因である。
この豊予海峡で、サバ、アジ に続く新しい魚種が現れ、どうも最近、ブームになりつつあるという噂を、グルメ通の老人が話していたらしい。
まだ実際に食べたことはないが、魚の名は 「 ジャニ 」 で、幾度となく街中で文字を目にする機会はあり、ずっと気になっているのだという。
ただ、この老人は少し目が不自由なうえに、内気で人見知りをし、怠け者の性分なので、前後の詳しい情報を読んだり、他人に尋ねるのが苦手だ。
決心し、フグ屋の息子に 「 近頃は、関サバ、関アジ に加えて “ 関ジャニ ( せきじゃに ) ” が出回ってるらしいが、知らんか 」 と尋ねてみた。
しばらく考えた後、「 オッサン、それは “ 関ジャニ ” ( かんじゃに = 関西ジャニーズ というアイドルグループの略 ) やがな 」 と息子は言い放った。
話が出来すぎているので、息子の考えた 「 ネタ 」 とも考えられなくはないが、創作能力の高い人物ではなさそうだから、実話の可能性が高い。
たしかに、一度そうだと思い込んだら、ある言葉を間違った意味に解釈し、ずっと誤解したままで、脳裏に保管してしまう経験は誰にでもある。
テレビ 「 巨人の星 」 の主題歌が流れる場面で、星 飛雄馬 が地ならし用のローラーを引き摺る様子をみて、器具を 「 コンダラ 」 と覚えた人もいる。
歌詞の 「 思いこんだら試練の道を♪ 」 を 「 重い コンダラ 」 だと勘違いし、大人になるまでずっと、文字通り 「 思い込んで 」 いたらしい。
私自身も、エラソーな御託を並べながら、どこかで 「 大ボケ 」 をかましているかもしれないし、まさに、知識とは 「 無知の大海に浮かぶ小島 」 である。
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