| 2008年04月10日(木) |
“ 悔い倒れ ” になった 「 くいだおれ 」 |
「 優れた作戦すべての真髄は、単純さである 」
エリック・アンブラー ( イギリスの小説家 )
The essence of all good strategy is simplicity.
Eric Ambler
世の中には、物事を複雑に考えて楽しむ御仁がいる。
そういう人々は、概ね、人並みに仕事が出来ないようだ。
大阪の道頓堀界隈には、「 グリコ 」、「 かに道楽 」、「 くいだおれ 」 などの大型看板、あるいは看板人形が立ち並び、観光客の人気を集めている。
そのひとつである昭和24年創業の食堂 「 くいだおれ 」 が、建物の老朽化などを理由として、7月8日に閉店することが明らかになった。
老朽化が理由なら、閉店せず 「 改装 」 すれば済む話だが、最近は売上が低迷し、赤字続きなことが本当の閉店理由のようだ。
大阪人なら誰もが知る老舗なのに、意外と 「 食堂を利用した 」 という人は少なく、そこに食堂があったことすら、ご存じない人もいる。
私自身は、何度か食事をしたし、少し前の話ではあるけれど、新年会などの宴会に利用した経験もあるので、廃業されることを残念に思う。
ちなみに、「 くいだおれ 」 の筋向いには 「 びっくりドンキー 」 という若者に人気のハンバーグ店があり、食事時は常に満員の盛況ぶりである。
面白いのは、続々と観光客が写真を撮る 「 くいだおれ 」 が閑古鳥なのに対し、記念撮影などしない 「 びっくりドンキー 」 に人が溢れていることだ。
老舗の廃業に、地元からは 「 淋しくなる 」、「 大阪文化の消失だ 」 などといった声も聞かれるが、よく考えてみると、これは自然の成り行きでもある。
いくら看板に人気があっても、いざ食事をするとなると、安くて美味しい店に客が流れるわけで、「 味や品質の割に “ 値が高い ” 店 」 は淘汰される。
ハッキリ言って 「 くいだおれ 」 は、それほど美味しくないのに値段が高い店だったから、どんどん客足が遠のき、廃業せざるをえなくなったのだ。
大阪に対する他府県民の印象は、「 安くて美味しい飲食店が多い 」 という意見が多く、事実、庶民的な価格で食事を楽しめる店は珍しくない。
逆に、「 美味しくない 」うえに 「 値段が高い 」 と死活問題で、いくら看板が立派でも、そのような店には誰も寄り付かないだろう。
写真撮影の後、お義理で食事をする観光客はいても、そこそこ舌の肥えた大阪人は、ほとんど立ち寄らなかったというのが実態なのである。
知名度の高い看板を武器に、本当なら、他店よりも楽に操業できたはずの同店が、経営に行き詰ってしまった背景は、まさにそれであろう。
全国規模の知名度を誇る看板人形を擁しながら、来客を増やすことができなかったのは、単純に 「 行く価値のない店 」 だったからにすぎない。
史跡などと違って、いくら地元の文化的財産といっても、それが商業施設である場合、生殺与奪の決定権は 「 顧客 」 が握っているものだ。
遠のいた顧客を再訪させるために、味や品質を向上させるか、販売価格の引き下げを行うなど、店側は創意工夫と努力をするのが本筋である。
それが出来なかった ( あるいは怠った ) 店舗は、むしろ淘汰されるべきであって、空いたスペースに新しい店舗を招致することが望ましい。
立地にも優れ、名物の看板人形があるのだから、さほど高度な経営手腕がなくとも 「 再生 」 の期待は大きいわけで、誰かが継承されるとよいだろう。
難しい理屈など不要で、ただ単純に 「 安くて美味しい店 」 を目指すことで結果は出せるから、思い切って 「 大阪府が買い取る 」 のも一計だと思う。
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