| 2008年04月13日(日) |
北京五輪に関する日米の対応 |
「 暴動とは、声無き人々の言葉である 」
マーチン・ルーサー・キング・Jr ( アメリカ公民権運動の指導者 )
A riot is at bottom the language of the unheard.
Martin Luther King, Jr.
概ね、暴動を企てるのは、「 言い分を聞いてもらえない人々 」 である。
平和的解決が最良なのは言うまでもなく、暴動は武力衝突を生む。
3月10日、中国からの弾圧に抗議する 「 チベット暴動 」 と、それを強硬に制圧した中国政府の姿勢は、広く世界各国の批判を集める結果となった。
折しも今年は北京五輪の開催年でもあり、いまのところ競技不参加を表明した国はないが、開会式、閉会式の参加取りやめを検討する国は多い。
当初、大会を盛り上げるために企画された世界規模の聖火リレーも、各地で抗議運動の標的と化し、まったくの逆効果となってしまっている。
かつて靖国参拝問題などで、ことごとく中国に反撥した小泉政権下ならば、日本政府も堂々と 「 遺憾の意 」 を示したことだろう。
しかし、現政権の福田総理も、政敵である小沢氏も 「 親中派 」 で知られることから、この問題は、政府として慎重な対応が続くものと予想される。
日本政府が他国に対する外交の意思決定を検討する場合、同盟国であるアメリカの見解を重視するのは必然で、とても気になるところだ。
ソ連の崩壊後、アメリカの一極支配を妨げる国は 「 中国以外にはない 」 とみられ、政治形態や思想の違いからも、敵対関係のように思われがちだ。
ところが、意外にも両者は 「 お互いに一目置く存在 」 と認め合い、相手に敬意を払う中国人の気持ちは、アメリカを意味する中国語にも表れている。
日本の漢字でアメリカを表すと 「 亜米利加 」 になり、省略すると 「 米国 」 となるが、中国語では 「 美利堅 」 と書かれ、省略すると 「 美国 」 になる。
つまり、中国語でアメリカは 「 美しい国 」 と表現されており、さらに、多くの中国人はアメリカのことを 「 老美 」 と呼んだりもする。
中国語の 「 老 」 とは、目上の人を敬うときに使う敬称で、たとえば、自分が仕える主人や社長は 「 老板 」、先生のことは 「 老師 」 と呼ぶ。
ちなみに、日本のことは 「 小日本 」 と呼ぶ中国人が多く、この 「 小 」 は、 “ ○○ ちゃん ” というような意味で、目下の者に対して使う蔑称である。
歴史的にみて、列強が中国を侵略していた当時でさえも、アメリカが単独で中国を攻めたことはなく、中国本土で戦争をしたこともない。
朝鮮戦争のときは交戦したが、そこでアメリカは中国に勝てなかった事実を素直に認め、そのフェアな姿勢に、中国人は敬愛の気持ちを抱いた。
それはアメリカ人にとって、中国が 「 初めての “ 勝てなかった相手 ” 」 という事実でもあり、安易に戦ってはいけないという感情につながっている。
唯一、アメリカが中国に兵を進めたのは、1900年の 「 義和団事件 」 の時で、鎮圧後、アメリカは清王朝から 4870万円 の戦争賠償金を受け取った。
アメリカは、鎮圧に関わった8カ国連合軍の一員だったのだが、他の国々と違っていたのは、必要経費を除いた 1670万円 を中国に返還したことだ。
ただし、直接返金したのではなく、この返還金を使って中国にアメリカ留学予備校・精華学堂 ( のちの精華大学 ) を設立したのである。
精華大学といえば、胡錦濤国家主席をはじめ、歴代の中国指導者を数多く輩出した超名門大学で、当然のことながら、出身者の親米感情は色濃い。
アメリカに対しては 「 好戦的な印象しかない 」 という御仁も多いようだが、実は、このような長期戦略に基づいた友好関係の構築にも長けている。
経済の実情からみた場合、中国は大量の米ドル、米国債を保有しており、それを一挙に売却してしまえば、アメリカ経済が大混乱する事態に陥る。
アメリカの財政赤字は、国債を買い上げている外国のお金で穴埋めされていて、中国は大量の外貨準備保有高でアメリカ経済を人質にとっている。
その一方で、中国経済を急成長させている源泉の一つは、アメリカ国民の中国製品に対する購買力にあり、彼らの不況は中国にも悪影響が出る。
このように 「 連携 」 と 「 対立 」 の米中関係は、相互補完的な結びつきが強く、アメリカが 「 中国を制裁する 」 ような行動は簡単にとれない。
北京五輪に関しても、アメリカ国民の多くが人権問題を声高に叫んだところで、両国政府では関係を保つための 「 舞台裏の駆け引き 」 が行われる。
もちろん、かといって チベット をはじめとする少数民族が弾圧され、彼らの歴史的文化や、宗教、あるいは生活が、排除されてよいわけではない。
ただし、中国はいま、環境、貧困、格差の問題や、過熱気味の経済成長、安全保障など、とてつもなく大きな未曾有の国内問題を抱えている。
経済の民主化に続き、今後 「 政治の民主化 」 が起こることも間違いないところだが、性急に焦り過ぎると、失敗や混乱を招く恐れも考えられる。
北京五輪の対応について、「 日本は独自の見解を示すべき 」 と語る御仁も多いが、中国の民主化が成功する鍵は、米中関係のバランスにある。
日本政府としては、アメリカのご機嫌をとるためでなく、少数民族を含めた中国人民の未来を鑑み、アメリカ政府の指針に同調することが望ましい。
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