感想メモ

2002年03月13日(水) 聖域 篠田節子

講談社文庫 1997

STORY:
長年希望していた文芸の編集者として異動した実藤は、着任早々、あまりのやりがいのなさに失望する。しかし、やめていった編集者の置いていった原稿の中から「聖域」というタイトルの未完の作品を探し当てたとき、実藤はこの作品を完成させなくてはという気持ちになる。実藤はこの作家を探し出そうと懸命になるが・・・。

感想(ネタばれあり):
 この作品、スケールが大きい・・・の一言。だからジャンルは何だと言われてもなかなかこういう作品とは言えないのだけれど、一つ言えるのは、死後人間はどうなるのか、生とは死とはを見つめた作品であるということ。
 主人公が亡くした大切な人を思う場面では思わず泣ける感じ。そして、「聖域」の作者を探し出すという過程にもなかなか納得ができる。
 しかし、結局この作品では生とは死とは?という課題を投げかけたのに、それが完成することなく(作中の小説「聖域」とある意味、同じだと思うが)、最後は突き放すように終わってしまう。この部分で何らかの結論を出すことさえもなく、また主人公は何もかもを捨ていきなり編集者の仕事もやめてしまっている。
 このラストにはちょっと納得がいかなかったが、そうは言ってもこの作品のスケールの大きさは変わることがない。あえてこのような難しい問題に結論を出さなかったということなのかなーとも解釈できる。

 先日読んだディーン・クーンツの「生存者」では、死後は別の世界があり、そこは生の世界よりも幸せに満ち溢れていて、死というものはまったくもって辛い悲しいものではないのだ・・・という世界観だった。欧米のものに限らないかもしれないが、最近このような死後の世界観というのが作品に登場することが多い。
 しかし、この作品では、死後の世界はあり、幸せであるというような考え方とともに、死後の世界は無であり、最初から存在すらしないというような説も描かれている。主人公はどちらが正しいのかを追い求めるが、やっぱり結局は死んでみないとわからないとしか言えない。
 ただ、死というものはやはり普通一般の人にとっては恐ろしく怖いものであるというイメージが強い。そのことを考えると私は「生存者」とか「三つの願い」という作品のように、死後はとても楽しい世界が待っていて、死ぬことは辛いことでもなんでもないという考え方の方が好きだなーと思う。

 それにしても最近、なぜかこういう作品ばかり選んでしまう。なぜだろう? 不思議だ。


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