| 2002年09月02日(月) |
久世光彦『燃える頬』 |
不思議な森の生活。 舞台は第二次世界大戦末期、主人公は父と二人で東京から疎開してきた15歳の少年。 戦争はますます激しくなっていたはずなのに、その森の生活には、まるで生活苦や食糧難といったものからはかけ離れ、優雅ささえ漂っている。 日本の片田舎であるはずなのに、西洋的な空気感はなぜだろう。
疎開先の森の日々は、ゆっくりと静かではあるがその一夏に少年はある女性と出会い、少しずつ大人へと変わっていく。
この物語がセンチメンタルに終わらないのは、父と少年との朴とつな「男の世界」が一貫しているからかもしれない。 女の私の目からは、べたべたしないけど通じ合っている、というこの父子関係は新鮮だった。
(余談) この本は、図書館で何気なく手にとって読んでみた本だけど、いろんなつながりに気づきました。
私は三島由紀夫が好きなのですが、三島氏が若い頃、ラディケにずいぶん傾倒していたと聞いて、最近ラディケの『ドルジェル伯の舞踏会』を読みました。 そしたら、その後読んだなかにし礼のエッセイ『愛人学』で、『ドルジェル伯〜』からの引用がありました。 そして、この作品、『燃える頬』はラディケの『肉体の悪魔』を意識して書かれたそうです。また、久世光彦は、三島由紀夫を尊敬しているとのことです。
こんなふうに、いろんな点が振り返ってみると一つの線につながっているということに気づくことがたまにあります。
ラディケなんてほんの一年前までは名前も知らなかったぐらいなのに、いろんなところで接点が出てきました。 こういう時、私は、今の時期に私が手に取るのにちょうどいい本が、自然に私に向かって集まってきているような感覚を覚えます。 こういう不思議な縁を感じることも本を読む楽しさの一つだなあと思います。
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