| 2002年10月24日(木) |
長嶋有『猛スピードで母は』 |
表題作と「サイドカーに犬」という短編が収録された単行本。 とっても淡々とした語り口なのに、思わず「わはは」って笑かせられたり、すんごく切ない気持ちになったり。
きっと、この作者の人は、照れくさくって、ダイレクトな愛情とか思いやりとかの言葉を口にしないんだけど、人一倍感じやすい人なんじゃないかと思いました。
ろ、いうのもこの表題作は、女手一つで僕を育てながらも背筋をしゃんと伸ばしさっそうと生きている母と僕の物語です。 母は、いつもは僕に人に迷惑をかけないようにと言うことだけは注意するが、それ以外のことはあまり頓着しない。
それについて、僕はこう思っている。 「母がサッカーゴールの前で両手を広げ立っている様を慎はなぜか想像した。 PKルールはもとよりゴールキーパーには圧倒的に不利だ。 想像の中の母は、慎が何かの偶然や不運な事故で窓枠の手すりを滑り落ちてしまったとしても決して悔やむまいとはじめから決めているのだ。」
母は、息子を思う気持ちがあまりにも強く、また、自分にはどうしようもないことがあることも分かっているからこそ、自衛の手段として、期待しすぎないようにしている、ということでしょうか。
人の気持ちのとても繊細で、言葉にできないような微妙なニュアンスを大切にして書かれている作品だと思いました。
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