| 2002年11月09日(土) |
綿谷りさ『インストール』 |
人に本を勧めるって、ちょっと難しい。 自分が読んで超感動したりすると、 「すっごいいいよ。 めちゃくちゃはまるって!!」 とか興奮覚めやらず、ついついびっくりマークいっぱいで話しちゃうんだけど、「いいよ!」というおすすめの本と言うものは、期待や先入観が邪魔をして、純粋に楽しめないことが多いものです。 「前評判の割には面白くなかった」 「期待していたのと違った」 という結果になってしまいがち。
綿谷りさの『インストール』に、前評判は不必要だった。 ないほうが良かった。 “現役女子高生の文藝賞受賞作!” ついつい色眼鏡で見てしまって、「高校生作家にしては…」 という視点から逃れるのに苦労した。
「女子高生が書いた等身大の物語」なんてアナウンスがなかったら、もっと公平な判断ができたろうになあ。
まあ、知ってしまっているものは忘れられないからしょうがないとして、なるべく先入観なしに読むように努力してみました。 そして、思うことは、すごくいい作品だ、ということ。
高校3年生。自称無個性な受験生が、自分の生き方に疑問を持って…というさわりから、 「多感な時期にありがちな、自意識過剰なナルシスト、おセンチ小説か」 とおもって読み進めると、あっというまに話しは転がって、思わぬ展開にびっくりさせられた。 そして、最後にはその話としての完成度の高さに感心しきりだった。
バランスが絶妙だと思った。 等身大だからこそ見えるリアルな今の姿、心の動き。 感傷やナルシシズムに陥らず、登場人物一人一人の個性を描ききる観察眼。 奇想天外で、あっと言わせる展開で読み手を引き込みながら論理展開に無理がなくて、納得させられてしまうストーリー構成。 イマドキとれたての新鮮な若者言葉と、お堅い表現を自在に操る日本語の豊かさ。
ただ、とってもこの作者はとっても頭が切れるっぽいから、高校生作家、って言う看板と、かわいらしい装丁にかわいらしい内容を期待して読んだりすると、がっかりかもねえ。 人の観察とか、結構残酷なくらい鋭いところをついている。
――よくクラスのみんなは、自分を可愛く見せるためにわざわざ不器用なふりをしてドジッ子を装う娘達をぶりっこなどと呼んで嫌うが、この本物の不器用よりはそのぶりっこ達の作られた不器用さのほうが余程マシだと思う。媚びの武器としての不器用は軽い笑いを誘う可愛いものだけれど、本物の不器用は、愛敬がなく、みじめに泥臭く、見ているほうの人間をぎゅっと真面目にさせるから。――
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