| 2004年07月19日(月) |
山田詠美『せつない話』 |
人の家に行くと、私はこっそりその部屋に本がないか見てしまう。 その人がどんな本を読んでいるのかなあ、というのはその人のちょっと個人的な部分を覗くみたいでわくわくします。
この本は作家山田詠美の本棚から、「せつない話」というテーマで本を抜き出して私に見せてくれました。 あとがきで選者が言っています。 「(悲しいとか嬉しいという感情は健康な心を持った人間になら誰にでもできるという記述に続いて。)それでは「せつない」という感情はどうか。 これは味わい難いものである。 外側からの刺激を自分の中で屈折されるフィルターを持った人だけに許される感情のムーヴメントである。
まったく味わえない人もいるし、ひんぱんに味わう人もいる。
何故かというと「せつない」という気持ちに限っては、心の成長が必要だからである。 つまり、それは、大人の味わう感情なのである。 「せつない」という感情を作り出すフィルターは、ソフィスティケイテッドされた内側を持つ大人だけが所有している。」
山田詠美が言うから説得力があります。 彼女の作品を読んでいて、心ひかれるのはその感情の表現の繊細さ、鋭敏さです。感受性というのでしょうか。 確かにその感情をそれと知るためには、受ける側に相応のの器が必要というのはうなづけます。
私が、この選集を読んでみても、「せつないな」と思うもの、思わないものとがありました。 それは私の心の幼さであり、これから手に入れる感情の余地ということなんでしょう。 また、何年かあとに読んだときの「せつなさ」が楽しみです。
収録作品は吉行淳之介「手品師」,瀬戸内晴美「けもののにおい」,丸谷才一「贈り物」,F・サガン「ジゴロ」,八木義徳「一枚の絵」など
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