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「 大寒のような 」
2005年01月20日(木)



 全長50Mとはあろうか、という新幹線もまたぐ大橋には、ビュウビュウと風が吹き荒(すさ)む。
 大型トラックが通ろうものなら、ゴロゴロゴロと上下運動まで加わる。
 大寒の中、さらに寒くなるのが冬の大橋の上で、荒ぶる風が灰色の手袋までも剥(は)ぎ取ろうとしていく。

 つゥーん と眉間による鈍い冷たさが、鼠色の歩道から闇夜へと視界を吹きつけた。
 巻き広がる、そして強風で散らかる視界に、キラキラと雪色の蛍光灯たちが薄靄(うすもや)のように左から流れて遊んでいく。
 その奥底には、揺(ゆ)るぎなく静かな星達が、 ポツリ  ポツリ  と老齢さを遥(はる)かにしている。

 駆け上がってきた呼吸が険しく、胸中から紅色の霧が飛び出すような錯覚が襲ってくる。
 前後左右に振ってきた首が激しく、口腔から富士山の雪が撒(ま)かれるような錯覚が見えている。
 轟音と暴風音でつんざまれた耳が苦しく、鼻先から駿河湾の深水が入り込むような錯覚が包み込んでくる。

 行きしなに逆さ方向から観た富士山の、宝永火口まで掛かる積雪の艶(あで)やかさ。
 相も変わらぬ闇夜の方向を望みながら、冥界(めいかい)の裁判官オリシスにぞっとするのであった。
 

注記:オリシス:エジプト神話の神の名で、後に閻魔(えんま)大王に変形する。

執筆者:藤崎 道雪

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