全長50Mとはあろうか、という新幹線もまたぐ大橋には、ビュウビュウと風が吹き荒(すさ)む。
大型トラックが通ろうものなら、ゴロゴロゴロと上下運動まで加わる。
大寒の中、さらに寒くなるのが冬の大橋の上で、荒ぶる風が灰色の手袋までも剥(は)ぎ取ろうとしていく。
つゥーん と眉間による鈍い冷たさが、鼠色の歩道から闇夜へと視界を吹きつけた。
巻き広がる、そして強風で散らかる視界に、キラキラと雪色の蛍光灯たちが薄靄(うすもや)のように左から流れて遊んでいく。
その奥底には、揺(ゆ)るぎなく静かな星達が、 ポツリ ポツリ と老齢さを遥(はる)かにしている。
駆け上がってきた呼吸が険しく、胸中から紅色の霧が飛び出すような錯覚が襲ってくる。
前後左右に振ってきた首が激しく、口腔から富士山の雪が撒(ま)かれるような錯覚が見えている。
轟音と暴風音でつんざまれた耳が苦しく、鼻先から駿河湾の深水が入り込むような錯覚が包み込んでくる。
行きしなに逆さ方向から観た富士山の、宝永火口まで掛かる積雪の艶(あで)やかさ。
相も変わらぬ闇夜の方向を望みながら、冥界(めいかい)の裁判官オリシスにぞっとするのであった。
注記:オリシス:エジプト神話の神の名で、後に閻魔(えんま)大王に変形する。
執筆者:藤崎 道雪