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「 寄生生命 」
2005年03月01日(火)



 実際、僕は救われないだろうね。
 中年になろうとするのに、未だに自分で決めた理に従えないのだから。
 世間から与えられた律すら満足にこなせないのだから。
 賢人から教えられた智すら消化できないのだから。
 肉体から付与された情すら迷わせてしまうのだから。
 
 神様を信じたいのかい? 天国があって欲しいなんて前提なのかい?
 あれだけ言い切っていたじゃないか。あれだけ精神の次元に収縮させたじゃないか。
 僕は救われないだろうね、だって?
 解ったふりをして実際、何にも解っちゃいない。
 知ったふりをして実際、自分では何も確かめちゃいない。
 フォトンもヒマラヤも愛欲もテクニカルタームも研磨技術も環境問題も全て受け売りじゃないか。
 入ってきて消費して通過する。
 
 実際、僕、なんてどこにあるんだい。
 遺伝子の伝達システムの一部で、本能に沈められ、環境に与えられ、代謝を消化していくだけじゃないか。
 何を食べるかだって? どうでもいいことだ。
 誰と結婚するかだって? どうでもいいことだ。
 何時肉体的に死ぬかだって? どうでもいいことなんだよ。
 それは、僕、である、ことに根本的に関わりが無いからなんだよ。
 
 個は地球上で確率的に何千何万が消えていっている。
 眼の見えないかのように、空気が当たり前のようにその個は無くなっていっている。
 僕、である、こともそのようなものなんだよ。

 神様を信じたいのかい? 天国があって欲しいなんて前提なのかい?
 救いがあって欲しいんだね。
 この個が、個になりたい、というその根源に遺伝子伝達システムが、本能が、環境や代謝がある。
 救いがたき消費。
 だからこそ、喜怒哀楽しか浪費できないのだろうか。
 それゆえ、個を益々強めようと、根源を避けようとして、
 金銭権力異性安全食料贅沢権力権威、芸術技術科学出産情感合理を数えている。

 実際、僕は救われないだろうね。
 中年になろうとするのに、未だに自分で決めた理に従えていても。
 世間から与えられた律すら満足にこなせていても。
 賢人から教えられた智すら消化できていても。
 肉体から付与された情すら迷わせてしまっても。


注記:原題は「実際、僕は救われないだろうね」

執筆者:藤崎 道雪

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