実際、僕は救われないだろうね。
中年になろうとするのに、未だに自分で決めた理に従えないのだから。
世間から与えられた律すら満足にこなせないのだから。
賢人から教えられた智すら消化できないのだから。
肉体から付与された情すら迷わせてしまうのだから。
神様を信じたいのかい? 天国があって欲しいなんて前提なのかい?
あれだけ言い切っていたじゃないか。あれだけ精神の次元に収縮させたじゃないか。
僕は救われないだろうね、だって?
解ったふりをして実際、何にも解っちゃいない。
知ったふりをして実際、自分では何も確かめちゃいない。
フォトンもヒマラヤも愛欲もテクニカルタームも研磨技術も環境問題も全て受け売りじゃないか。
入ってきて消費して通過する。
実際、僕、なんてどこにあるんだい。
遺伝子の伝達システムの一部で、本能に沈められ、環境に与えられ、代謝を消化していくだけじゃないか。
何を食べるかだって? どうでもいいことだ。
誰と結婚するかだって? どうでもいいことだ。
何時肉体的に死ぬかだって? どうでもいいことなんだよ。
それは、僕、である、ことに根本的に関わりが無いからなんだよ。
個は地球上で確率的に何千何万が消えていっている。
眼の見えないかのように、空気が当たり前のようにその個は無くなっていっている。
僕、である、こともそのようなものなんだよ。
神様を信じたいのかい? 天国があって欲しいなんて前提なのかい?
救いがあって欲しいんだね。
この個が、個になりたい、というその根源に遺伝子伝達システムが、本能が、環境や代謝がある。
救いがたき消費。
だからこそ、喜怒哀楽しか浪費できないのだろうか。
それゆえ、個を益々強めようと、根源を避けようとして、
金銭権力異性安全食料贅沢権力権威、芸術技術科学出産情感合理を数えている。
実際、僕は救われないだろうね。
中年になろうとするのに、未だに自分で決めた理に従えていても。
世間から与えられた律すら満足にこなせていても。
賢人から教えられた智すら消化できていても。
肉体から付与された情すら迷わせてしまっても。
注記:原題は「実際、僕は救われないだろうね」
執筆者:藤崎 道雪