大雨が海の波のように渡ってくる台風の日に、僕らは駅のホームに腰掛けた。
焼け野原の向こうに薄暮れて見える谷津山と、羽虫が溜まるように白電灯に
照らし出される雨滴をドキドキと行き来した。
怖ろしくて緊張して立ちすくんでいた君の手を、いつものように引き寄せてみたら座ってくれた。
深夜のメールで別れを切り出されて、けれどそれは僕の人間不信で傷つけてしまったから。
他人を今まで全部信じたことなんてない。
家族にすら自分を全部見せたことはない。
自分をこれまで全部受け入れたことなんてない。
すっと自然に君は座ってくれて俯(うつむ)いた。
台風の大風がホームの屋根を超えて2人に吹き付けてきて、君はまくっていたブラウスを戻したね。
それがもう1つの勇気をくれた。
何十回も触れてきた細い手弱かな右手をゴツゴツとした左手で握った。
台風が直撃するのは後2時間ばかり。
この吹き付けるフラットホームに2人では居られない。
この拭き荒む精神的遅延に2人では居られない。
覆いかぶさる台風の紺色の波を振り払うように、僕は言い聞かせるように語り出したんだ。
追記:タイトルはRAMJAの「追憶」を聞いている時に考えていました。
執筆者:藤崎 道雪