入れたての紅茶を恐る恐る一口含んだ。
口の中に熱湯とは違う真っ赤な火の玉が生まれては吸収され、初めて口腔に充満していた粘液に気がついた。
思い出せば立秋の湿気から夕暮れの秋風までの、貪り合い。いやそれだけではない、お互いを肯定し合い、性別の情動の、個体の偏差の、正義感の歪みの、緩やかな狂気の、昇華する愛し合いの、仄(ほの)かな初恋の、絶対的な依存関係に基づいた肯定。
まとわりつく粘液の正体はまさにそれだ。
単なる雑音に聞こえてくるお喋りや、道徳的な善なる行為や、与えられた名誉や金銭の捕食、動植物のような欲望としてだけの性交、日常的な繰り返す朝食、感動や感謝のまったくない睡眠は、さらさらと流れていくだけなのだから。
囚われていた事実も支配されていた感覚も、気がつかないような薄紫色の粘液が、静脈にこっそりと隠れていた。
クンクンと二の腕を嗅いでみる。ある。
ふた口目の紅茶
み口目の紅茶を
ご口目の紅茶で完全に洗い流れた、その薄紫の粘液
執筆者:藤崎 道雪