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「 幽霊の形状 」
2005年09月03日(土)


 帰り際、その異性のことが浮かんできた。
 暗い林のような曲がり角を左に体を倒す疾走感の中。
 
 首筋の汗を舐めとるように浮かんできた語彙達が遊びかけてくる誘い文句をよくよく聞いていると、どうも、その異性に頼っているのだろう?というまとめになってしまった。
 限りなく暗天に薄められた三日月に、本当かな? と語りかけると、黒林が深夜に吐き出す二酸化炭素が返事を邪魔するように干渉現象を引き起こした。
 永劫に縮小していくように後退していく登り階段と鳥居の先は、暗天に三日月がないように根源的な崇高と表象的な恐怖に渦巻いている。
 振り返ると、もう出発点が観えなくなるように広がっていく降り階段と鳥居の間には、ポツリ、ポツリと3人の姿だけが幽霊のように白々く揺れている。
 四肢の静脈から産まれる薄紫色の粘液が、染み出して全身を包み込みながら足跡に粘り残ってきたのだ。
 決定的に決別した時、決定的に私が加速して慣性の力を振り切った時、決定的になった時、階段の上に粘液がその人の形状となって残ってきた。

 暗い林のような曲がり角を左に体を倒す疾走感の中に感じたのは、立秋の夕暮れ、空高くに居まします透明なスカイブルーからブルーグラスリリーへのグラデーションなのだろうか。
 何時の日かその異性は、この四肢と勝手に共鳴してミゾソバ色の粘液を噴出させていくのだろうか。
 薄紫色の波長が離れていくと全ての重なり合った白くなっていくように、鐘音の鳴り響く中でその異性もまた、錯誤の総体となっていくのだろうか。


追記:文中の語、「薄紫色の粘液」は「 薄紫の粘液 」(2005年09月01日)を、「鐘音」と「錯誤の総体」は「 鐘音と共に 」(2005年06月16日)をご参照下さい。

執筆者:藤崎 道雪


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