一緒に飼っていた金魚が余りにも美しすぎて、私は嫉妬したわ
貴方はいつも金魚の水温や糞までマメに見るというのに、私の煎餅(せんべい)布団は夏も冬も同じだったもの
一緒に飼っていた金魚が余りにも美しすぎて、私は憎んだわ
貴方はいつも私のご飯を、美味しい、って言ってくれないのに、金魚には美味しいか、って聞いていたもの
一緒に飼っていた金魚が余りにも美しすぎて、私は見蕩(みと)れたわ
貴方はいつでも私を蕩(とろ)かす匂いだというのに、金魚の水の匂いで妊婦は嘔吐(おうと)するだけだもの
一緒に飼っていた金魚が余りにも美しすぎて、私は無視したわ
貴方はどこでも金魚の様子を気にかけて電話をかけて来るというのに、私が実家に帰るのを許さなかったもの
気がついてみれば部屋は40年以上経った6畳しかない古ぼけた畳ばっかりだったんだ
大きな小太りの後から抱き付いて包丁を真横に突き立てて飛び散った金魚色の液体を拭き取るのは大変じゃあなかったもの
何度もその上に金魚を水槽の水ごとぶっ掛けてあげたら奇麗なのに、って思ったわ
でも、やっぱり止めたの
貴方の体から金魚が抜けていって、両頬がどす黒くなってカビが生えてくるのを待とうって思ったもの
貴方の体の中の私を酷(ひど)く惹き付けたもの、狂わせたもの、怒らせたもの、強く勇気付けてくれたもの、愛情を感じさせてくれたもの、そしてこれから怨念を思い出を忘れないようにしてくれるものだもの
それを待ってから、貴方の体の奥底にも金魚色がないのを確認するためにバラバラにして、1つ1つに頬擦(ほおず)りをしてお別れをしたわ
そうしたら涙が止まらなくなって大声を出して泣きじゃくってしまったの
決して貴方と別れたからでもないんだけれど、パクパクさせている4匹の金魚の水槽を見たら、ピッタリ止まったの
金魚よりも雄雄しくて野蛮で力強い鯵(あじ)なんかに食べさせてあげようと持っていったわ
金魚は今でも私の部屋にいるの
その頃のじゃないけれど腹をプカプカさせたらまた新しいのを継ぎ足して
一緒に飼っていた金魚が余りにも美しすぎて、私は嫉妬したわ
だから貴方の事が心の底から大好きだったの
手をパクパクさせて金魚に手を振っているような仕草をする息子を見るとそんな風に思い出すの
執筆者:藤崎 道雪