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「 ペルシャ猫と三毛猫 」
2006年03月15日(水)




全身の毛並みが鼈甲(べっこう)のようにつやつやと光っているペルシャ猫が、すっとした首をさらに高く伸ばして言いました。
 「やっぱりもっとハンサムな男の人が現れたら、私はそちらの方へ参りたいと思ったの」
肩のいかっている毛並みもギザギザの大きな黒斑点が顔半分を覆う三毛猫が、そっと視線を落としてつぶやきました。
 「こんな恋愛の話を聞いたことがあるわ。3人の男の人の話よ」
遠くからは琥珀(こはく)に見える密集した長い毛を動かさずに鼻先だけを横にして目を、つーんと押しつけてペルシャ猫は答えました。
 「あら、面白そうね。教えて下さるかしら、丁度あの人が来るまで時間があるんですの」
横に向けられた黒い鼻先だけをちらっと見上げて、三毛猫は1つ1つ思い出すように間違えないように、そしてちゃんと聞こえるように落ち着いた声を出しました。

「金田さんと宝田さんと飯田さんが求婚するお話よ」
「あら、みんな、田がつく人たちなの、変わっているわね」
「金田さんは、街では評判の美人、豊子さんに惚れ込んで惚れ込んで、一生懸命頑張って100万円貯めたそうよ。そして豊子さんに求婚をしたそうなの。そうするとそれを同時に宝田さんがキラキラと光るサファイアを手に求婚したの。とっても素敵な輝きを持つサファイアは150万円相当だったそうで、豊子さんは悩んでしまったの。」
「どうしてなの? 宝石の方が高いじゃないの。それって当たり前だけれど大切なことよ」
「豊子さんが悩んだのは、宝石はキラキラしていて綺麗だけれど、お金は色んな物に変えられるじゃない。それに、宝石は売ると75万くらいにしかならないそうで迷ってしまったの。そうして少し悩んでいると、評判を聞きつけた飯田さんが遠くの農村から200万円分の食べ物を持って求婚にやってきたそうよ」
「200万円分も食べたら太ってしまいそうね。男の人に捨てられてしまいそう、大変だわ」
「またまた豊子さんは悩んでしまったの。だって、宝石はキラキラしていて1日中眺めていても飽きないけれど、お腹が減ったら困るもの。けれど食べるだけでは満たされないものがあって、キラキラ輝く宝石はそれを満たしてくれるのね。現金100万円は宝石にも食料にもなるけれど、食料を買うには半分だし、宝石ももっと良くないランクのものになってしまいからね。」
「そうよね、私もそうなったら悩んでしまうでしょうね。でも100万円単位なら殆ど一緒だから気楽に決められるでしょうね。」
「そうしたら、・・・」
「あら、あの人がやってきましたわ。遠くから見ても格好良いですわねぇ〜 どうも面白いお話ありがとう。お陰で退屈せずにすみましたわ」

 ペルシャ猫の右横からすっと現れた影が、「お嬢さん、とってもお美しいですね。是非とも私と結婚して下さいませんか」と言いました。
 琥珀色の毛が、ザザッと逆立ったかと思うとすっと引きました。何故なら、今の恋人が目に入らなくなるくらいのすらっとした顔立ちの正体は、犬だったのです。
 ペルシャ猫はとっても迷いました。
 ずーっとずーっと迷ってしまって何時の間にか死んでしまいました。

執筆者:藤崎 道雪


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