最近 何を書いていいのか分からない仕事の愚痴を書いては消し娘への思いを書いては消し・・生きるということは苦の波をくぐりぬけていくことでありこの世のあらゆるものは、実体がないのだと認めあらゆる状態は決して同じ状態をとどめないで移り変わっていくのだと認識すればこの世にあるすべてのものが移ろい滅んでゆくのは、逃れ難い約束であり人の心も情熱も、健康も肉体の若さも決して一瞬も同じ場に止ってはいないのだと信じることも出来る筈であった 瀬戸内 晴美 「私小説」