早瀬の呟き日記

2002年07月07日(日) 「エレファント・マン」

やったよー!「式神の城」コンティニュー回数の自己新出せたよ! 3面までノーコンティニューで行けたよ! ・・・と弟に自慢したら「お、すげーな」と言った後で「てか、やりすぎ」。ぎゃふん。

寝不足の原因、それは「エレファント・マン」ことジョン・メリック氏でした。象のような男の人の話で、以前劇団四季で市村正親氏が演じたことだけは知っていて、今度藤原竜也が舞台で演じるというので興味を持ち、チケットを買いました。(藤原竜也に、ではなく、演目に、です/笑) どんな話だろう、そう言えば「フロム・ヘル」にも出てきたっけな、てことで、予備知識をと思ってサイトを巡ってみたのです。
本物のメリック氏の写真画像を見て、私は、言葉を失いました。言葉を失った、という言葉さえ不十分なのですが・・・。
「フロム・ヘル」ではちょっとしか出なかったし、本筋と全く関係なくぱっと出てきたので「あれ? この人『エレファント・マン』じゃない? こんな感じだったの?」という印象でしたが、このときは、受けた衝撃がぐるぐる頭の中を回っていて、眠れなかったのです。江戸川乱歩や横溝正史あたりを好きな早瀬の「怖いもの見たさ」という気持ちも、あったかもしれません。が、そんな甘い構えは叩き潰されました。
衝撃を持て余した早瀬は、サイトの多くが、デヴィット・リンチ監督の映画(1980)に言及していたので、借りてきました。見るのに、早瀬としては珍しく2日かかりました。(基本的に、ちょこちょこ見るの好きじゃないので) 一気に見るには、ヘヴィーな映画でした。メリック氏の頭蓋骨や身体の石膏型が今も残っているので、ほぼ忠実に再現した特殊メイクとのことでした。「フロム・ヘル」よりもずっと、忠実だったと思います。残酷なほどに。
物語はこうです。19世紀末ロンドン。優秀な外科医であるトレーブス(若きアンソニー・ホプキンスです。彼は「博士」の役が似合いますね)は、「フリークス」を見世物にしている小屋で「エレファント・マン(象男)」と呼ばれる男を見る。彼の姿に感情を揺すぶられると同時に、外科医としてこの事例を学会に発表してみたいという思いから彼は、「持ち主」である興行師バイツに交渉して「エレファント・マン」を勤務する病院に連れて行く。
・・・ここから先は全部ネタバレみたいになってしまうのでできれば見て頂く方がいいかとも思うのですが、お勧めするのも何というか・・・「あの、かなりスゴイですよ。大丈夫ですか?」と言わざるを得ないので・・・。
(以下はネタバレも含みますので、ご注意を)
映画の評は総じていいようです。
見終わったばかりの私にはまだ、上手く感想をまとめられません。色んな感情と考え(未満)が溢れてきて、苦しくなる映画です。「泣かせるいい映画」などという余裕ぶった発言はできません。「人権」の話に持っていくほど冷静にもなれません。
ただ、メリック氏に対する脚本家or監督の情の表れなのか、ラストシーンは少し演出っぽさが気になるかもしれません。文字として書かれた彼の最期の方が、強烈な印象を残します。
彼はただ、普通に眠りたかった。普通の人と同じ様に横になって、眠りたかっただけ。なのに、頚椎を折って、死んでしまった。頭が、大きかったからです。
こういう題材を扱う場合、徹底してクールに描くしか、ないような気がします。
現実に比べて、創作の無力が明らかな場合には。
その上、心の汚れている私は、思ってしまうのです。
本当に、メリック氏は「心の美しい」人でいられたか?と。
「オペラ座の怪人」エリックは架空の人物ではありますが、幼い頃からその髑髏のような顔のため母親に嫌われ、家出した後見世物にされ(この辺まではメリック氏と似てます)、やがて世を逃れてオペラ座の地下に住み着きます。彼は、オペラ座の支配人をゆすり、様々な要求を通します。自分を嘲る者があれば、殺します。クリスティーヌに「音楽の天使」として近づき、ラウルとの仲に嫉妬し殺そうとします。
エリックなら言うでしょう。世界は私を拒んだ。ならば、私が世界を拒んで何がいけない?
メリック氏には、世界を呪うこともできた。
もし、本当に彼がそうしなかったとしたら、それはたぶん、彼が無力だったから。
エリックは、人殺しができます。身体能力は並み以上です。様々な仕掛けを考えつく才能も芸術家としての才能も持っています。彼は、本来ならば「強者」なのです。しかしメリック氏は、歩行もスムーズでなく、右手も使えません。得意なのは、紙の模型作りです。
究極に無力であるとき、人は、優しくなるより他ない、のかも、しれません。

トレーブスの病院に入ったメリック氏は最初、知能が低く話せない振りをした。「喋るのが怖かったんです」。それは、何故?と私は思いました。私は、話してくれないメリック氏は怖かった。表情もよくわからないし、何を考えているのかわからないから。でも、話してくれるようになったメリック氏・・・ジョンに、段々・・・何と言うか、どこか苦しさを伴う正の感情、を持つようになりました。「可哀相」なのか「好き」なのか、自分にもよくわかりません。
私は、昔から動物が嫌いでした。怖いのです。話してくれないから。何を考えてるのかわからないから。最近は、犬や猫であれば多少、様子がわかるようになったので(警戒してるとか、人懐こいとか、怯えてるとか)「怖い」という感覚は薄くなりました。「好き」ではないですけども。
映画の中でジョンは言いました「人は、理解できないものを恐れます」。
たぶん、当時の見世物を見に来た客やバイツには、「聖書を暗誦しジェントルに話す象人間」の方が「理解できない」ものだったのかもしれません。彼らは、ジョンを「持ち物」「見世物」として見ていた。従順である限りは、微笑みかけもする。「俺の宝」とか「面白い、いいもの」などと呼んで。しかし、彼が「意志」を示せば――つまり、「物」ではないと伝えようとすると、最悪、バイツのように暴力を振う。暴力は最も、言葉を無力化すると思います。

・・・やっぱり何にもまとめられません。支離滅裂です。すいません。
白黒映画にしている点は、時代感があってよかったと思います。
ちなみに、ジョンの症状は骨の過剰成長やその他の合併症がある「プロテウス症候群」と言い、現在でも原因は不明なようです。100年以上経っているのに。
美青年の藤原竜也君が、精神体としてのジョン・メリックをどう演じてくれるのか。今からとても気になります。
(現実的に言えば、そういう演出方法でなければ再演しにくいような気がします。この話は)


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琳 [MAIL]