カンラン
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2002年07月02日(火) 飛び石記憶



現像した写真の束をぱらぱら見ていたら,

手がブレーキをかけた。



いつもよく私が好んで撮るような写真の中に

数枚だけ雰囲気の違う写真。



いつのことだったかはっきり思い出せないけれど,

着てる洋服からして,

去年の夏がうっすらとあたりに漂い残ってる頃だったんだろうと思う。

私の髪もまだ長い。



あの時期のことはあんまり記憶に残ってない。



それは多分,ほんとうに忘れてしまったわけではなくて,

上から新しい日常のこまごまとしたものを被せに被せただけで,

きっと心を決めてしまえば,

何層にも積み重ねたものをどかしさえすれば,

あの頃のちっぽけな私がきっと膝を抱えて丸まってるのがあらわになるんだろう。



引っ張り出さないようにしようと決めてること。



見ないでおこうと決めてること。



何も見ていない目で

車窓から流れる景色を眺めつついつもと変わらないように生活して,



何も聞いていない耳に

ピアスをもいっこ増やして,



何にも触れたがらない手のひらを

ぐうにして握り締めて,



何も喋りたがらない口で

とりあえずの相槌をうって大丈夫だからと言って,



何もしたがらない手で

荷物をまとめた。



どこまで行くのか,

どれぐらい行くのか,

分からなくなるほど

なんでもかんでも鞄に詰め込もうとして,

出発の朝になっても荷物はまとまらなかった。



自分の正直な気持ち,

面倒くさかった。



家を出るまで,駅に着くまで,新幹線に乗るまで,降りるまで,

どこまでいっても面倒だった。



以前から計画していたこの旅は,

人を祝福するためのものだった。



だから,私がこんな状態だということが,

人のことを考える余裕をなくしてることが,

とても申し訳なかった。



けれど,表だけはせめて普通にしとこう,普通でありたい。

(けど,普通ってなんだろう?)

そうじゃなきゃ,二度と笑えないような気がしていた。



キャンセルを言い出さないまま

気がつけば当日になっていた,という旅。



ただのうそつきかも知れないけど,

そんなふうにして普通に楽しい休日を過ごすフリをしてみようと思った。



自分を取り戻すために

自分を取り繕うためでも

普通に楽しげな休日を過ごしてみたいと思った。



旅の間,

撮った写真はたったの2枚だけで,

写真の中,

私の顔を見て,

時間てすごいなと思った。

あんな顔して写ってる。



それから・・・

そう言えば,

「普通に楽しげな」写真を1枚も撮れてなかったことに気づいた。



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