| カンラン 覧|←過|未→ | 
 
 
 もぅっとする熱気の中州の電停で 頭の中ももぅっとなりかけた頃, 大きなかばんを下げて横断歩道から渡ってきた旅の人。 「すいません。」ということばがまず耳の中に流れてきて, その人のすがたが目の中に映りこんできてどんどん大きくなり, ようやく「あらあら。」と頭が動き始めた。 宮島に行くというその旅の人は路面電車には不慣れなようで, しきりに「電車って,次から次にたくさん来るんですね。」と うれしそうに大きく見開いた目で 電車の乗っかったレールを右へ左へ追っていて, 変な感じだけど,私はその人の様子を目で追ってる方が楽しかった。 そうそう。 私にとってはすっかり通勤手段になってる電車だけど, 車やバスやトラック,タクシー,バイクなんかと並んで道路を走る姿は 旅の人の心を掴んじゃうんだろう。 前にも,「どうしても一駅だけでも乗りたくて。」と 頭を掻き掻き子供の手をひいて興奮気味の旅の人に出会ったことがあった。 旅の人の目には,この街はどんなふうにうつったんだろう。 そんなことを思いながら私も電車に揺られていると, 原爆ドームの暗がりがいつもよりも暗く深く, 十日市のカーブがいつもよりも振りが大きく, 西広島のホームがいつもより遊園地のジェットコースター乗り場ライクで, 市外線の線路沿いに干されっぱなしの夕方の洗濯物はいつもより白く感じた。 
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