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.◆◆第1話:『彼女の彼』��
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翌日・日曜日。 やっと来た、夏樹にさよならすると決めたあの日からずっと待ち続けた、だけどその一方で、一生来なければいいと思った最後のデートの日。いつも以上に念入りに支度をして、家を出る直前に楓の家に電話をする。 「はい・森本です。・・・あ、梢ちゃん?早いねぇ。あたしまだ寝てたよ」 あたしの思惑になど、おそらくまったく気づいていないであろう楓は無邪気に聞いてくる。あたしは一瞬、ぐっと受話器を握り締めた。 「ねえ、楓。今日ひま?」 「うん、暇だけど・・・どうしたの?」 「あたし、夏樹と遊園地に行く約束したんだけど、だめになったの。だけど、遊園地のフリーパスが今週いっぱいで切れちゃうから、もったいないでしょ?せっかくのタダ券・無駄にしたくないから。楓・行かない?」 夏樹が来ない、というのはもちろん嘘だ。楓を誘うために嘘をついたのだ。夏樹が一緒だと言うと、楓のことだから余計な気を使って、行かないと言い出しかねないから。だけど、楓がいないと意味がないのだ。あたしはふたりの前でさよならを言いたかった。笑顔で、新しく始まるふたりの恋を応援したかったから。 一瞬、楓が電話の向こうで考え込む気配。 「いいわ。どこで待ち合わせする?」楓の返事にほっとしつつ。 「あたし、用事があって先に行くから。十二時に遊園地の時計台の下で。悪いけど、入場料だけは払ってくれる?」そう告げて、電話を切った。 外に出ると、空は悔しいぐらいのぴーかんの青空。 「今日はがんばらなくちゃ」 そう自分に言い聞かせて、あたしは夏樹の待つ駅へ向かった。
「ねえ夏樹、次はあれにのろっっ!」 10時。 あたしと夏樹は遊園地にいる。 「・・・そだね」夏樹はとりつくろったような笑顔を見せる。・・・お願いだから、一度でいいから心から笑ってほしいよ・・・これが最後だから・・・今日を最後に、友達に戻るから。あたしは、泣きたい気持ちを押さえて必死で笑顔を作る。
そういえば、最初のデートも遊園地だった。 あの時はガチガチに緊張して、笑顔を作りたくても作れなかった。話題が続かなくて沈黙の重さにつぶされそうになっていた。あれから約一年・・・まさかこんな日が来るなんて思いもしなかった。あの時とはまた違った意味で無理に笑顔を装う自分がいる。 いつだったんだろう、夏樹の笑顔が、あたしといるときよりも楓といるときのほうが柔らかく輝いてみえるのに気づいたのは。 最初は、気のせいだと思いたかった。だけど日を追うごとに夏樹の顔から笑みが消えていって、夏樹の気持ちが離れていこうとしてるのを嫌というほど思い知らされた。夏樹の笑顔をくすませてしまったのは自分の言動が原因だと言うのはわかっていた。だけどそれに気づいたからって、今までの自分を変えていこうなんてのは至難のわざで、いくら楓のようになりたいなんて思っても思うようになれない自分に腹が立つやら、情けないやらで・・・。 さんざん泣いた。うだうだ悩んだ。だけど結論はいつだってひとつしか出てこなかった。 このままいてもつらいだけだし、夏樹の思いもそう簡単に動くはずもない。 それなら『彼が別れを言い出す前に、自分が退くしかない』と。
11時30分。 「お腹すいた。何か食べようよ」 夏樹がレストランのほうへ向かい、あたしもそれについていく。 「・・・・いらっしゃいませ」 マニュアル通りの、うわべだけの笑顔を浮かべたウェイトレスが、ごとん・と音がしそうなくらい無造作に水とメニューをおいて去っていく。どうする?といわんばかりに、彼が無言であたしのほうにメニューを広げてみせる。 「いいよ、夏樹から先に決めて」そんなあたしの言葉に、彼は少し驚いたようだ。 「何か、今日は梢が優しい。・・・・・ごめん」 「いいよ、本当のことだもん」あたしは肩をすくめてみせる。 今まで、夏樹の優しさに甘えっぱなしだったあたし。 最後のデートになりそうな今となっては、もう反省しても遅いけど。 (「彼女の彼」�い紡海�)
2002年03月14日(木)◆◆
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