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.◆◆第1話:『彼女の彼』��
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12時03分。 あたしたちは時計塔の下にいる。そろそろ、楓が来る頃だ。 「夏樹、あたしちょっと電話してくるから、ここで待ってて」 「・・・わかった」 あたしはそこから50m先の電話ボックスに走る。受話器を取り上げて、番号を押すふりをしながら時計塔のほうを見つめる。その瞬間、あたしの視線はそこで凍りついたように動けなくなってしまった。 楓が、いる。 楓と夏樹が顔を見合わせている。どうして?と言わんばかりに。
あたしは受話器をおいた。電話からテレカが吐き出されるときの合図音がやけに耳に残る。・・・最後だ。これで終わりにするんだ。うまくお芝居するんだよ、梢。 自分自身にそう言い聞かせて、あたしは電話ボックスの扉を開けた。 一歩一歩ふたりの元へ近づくごとに、揺れる気持ちをどうにか笑顔の下に押し込んで、ふたりのいる時計塔へまっすぐに歩いていく。
「梢ちゃん、これはどういうことなの?」 楓があたしを見る。そのとまどいを隠せないと言わんばかりの視線を出来るだけ見ないようにした。 「今日はね、あたしと夏樹の最後のデート」わざと明るく、さらりという。 「おい、それって・・・」息をのむ夏樹。それを見ないふりして続ける。 「そして、夏樹と楓の最初のデート」笑いながら、決して涙は流すまいと、爪がくいこむくらいきつく、こぶしを握り締める。 楓は目に涙をいっぱいためて、じっとあたしを見ている。 「気づいてたのか?僕が楓のほうを見てたって」夏樹の問いにうなずく。 「・・・気づいてた。女の子ってね、こういうことにけっこう敏感なんだよ。楓の想いも知ってた。・・・でも、二人ともあたしに遠慮して、お互い打ち明けようとしないんだもん。ふたりの優しさにこれ以上甘えていられない。夏樹が冷たく突き放してくれたら、楓があたしをさしおいて夏樹と両想いになってくれたら、あっさりと忘れられたのに・・・ふたりとも優しいんだもん。そうなると、あたしが退くしかないじゃない。夏樹があたしのことを見ていないし、これ以上あたしを好きになってくれないってわかった以上は!」
「ごめん、梢ちゃん、ごめん・・・!」楓が、とうとう泣き出した。 「ばかねえ、なんで楓が泣くのよ。素直になっていいんだよ、自分の気持ちに正直になっていいんだよ。だから笑ってよ、ね?・・・夏樹、今までありがとう。わがままな彼女でごめんね。・・・これからも、できれば『友達』でいてくれる・・・?」 「・・・梢にこんな思いをさせて、許してもらおうとは思わない。でも、梢さえよければ、こっちからお願いしたいぐらいだよ」彼がうなずいてくれるのを見て、また泣きそうになった。 「さて、それじゃあ邪魔者は消えるとするか。・・・うまくやんなよ」 あたしは後ろ向きで二人に手を振った。 すたすたと歩いて行って、途中で振り返ると、楓と夏樹が手をつないでどこかへ去っていく後ろ姿が見えた。 それを見送りながら、これでいいんだ、少なくとも二人にはこうしたほうが良かったんだ、きっと。あたしは何度も何度も心の中でそうつぶやいていた。 (「彼女の彼」�イ紡海�。)
2002年03月15日(金)◆◆
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